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アスファルトに咲く花
5

「…あれ?」


視線を受けているのが自分だと気付いた明良が、きょろきょろと周囲を見渡してから慌てて利也の陰に隠れた。

その様が更に周囲の注目を集める要因となっているのだが、明良には他に逃げ場所がない。安全圏が総長様の側だけだとは、少々悲しいというか恐ろしい気がした。


「あー、和己さん、コレが俺の『仔猫』ね。臆病な上ちょい人見知りやから、勘弁したってや」


自分の後ろに隠れた明良をどう思ったのか、苦笑い、けれどどこか少し嬉しそうな色を含んだ声で利也が言った。ぽふぽふと、大きくも形良い綺麗な手が頭の上に乗せられる。

別に、普段の明良は人見知りな訳ではない。…ないのだが、この場ではそういう事でもいい。


(…だって、此処にいる人たちと仲良く出来る自信、ない!)


ショートケーキで気分が塗り替えられかけていたが、此処は明良にとっては第一級危険区域なのだ。

フレンドリーは明良のモットーだが、此処はちょっと治外法権。というか、適応出来るだけの度胸がない。


「此方ですよ」


明良がそっと利也の陰から顔を出すと、いつの間にか奥の席に移動していた唯人が手招いていた。

利也が動かない事には移動出来ない明良は、そっと彼のシャツの裾を引いてみる。…これでもかなり、自分的には勇気の要る仕草だ。


「ん? …あぁ、行こっか」


振り返った彼は、優しい笑顔だった。

少しだけ恐怖が薄らぎ、その代わりにざわりと妙な鼓動が胸中で騒ぐ。…何だ、これ。

薄い布地を掴んだ手を捕えられ、手を引かれてメルヘンチックな店内を横断する。周囲からの好奇の視線が、とても居たたまれない。


「…ゆ、唯人ぉ…、俺もうくじけそう…」


やっとの思いで店の奥に辿りついた頃には、もう涙声だった。

あらゆる要因から不整脈を奏でる心臓を抑え、涼しげな顔でコーヒーを堪能する親友に向かって嘆く。


「視線が居たたまれない気持ちは、俺にも分かりますが…」
「分かる? ホントに分かる?」
「分かりますよ。…俺も、本来はこういうの苦手ですから」


確かに唯人は、明良以上に他人の視線を否う性格だ。…最近は龍治が絡む為に耐久性がついている様だが、昔は若干顔色が悪くなる程だった筈。

それを思い出した明良は、自分の顔を覗き込んでいる唯人に尋ね返す。


「…大丈夫?」
「俺より明良の方が大丈夫ではなさそうに見えますがね。…俺なら大丈夫ですから、安心して下さい」


こんな状況でも他人の心配をする明良に、唯人は苦笑いして肩をすくめた。

顔色は、絶対に明良の方が悪い。


「キティ、ダイジョブか? ツラいなら座りや?」
「あ…はい…」


立っていても座っていても、この環境が何とかならない限り体調というか精神衛生は変わらない気もするのだが。

それでも利也が奥側の席に押し込んでくれたお陰で、周囲の様子が視界から消えて少しホッとする。


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あきゅろす。
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