アスファルトに咲く花 始まりとは総じて唐突なもの …どなたか、この状況に対する納得のいく説明をお願いします… * * * 何て事はない、いつも通りの日常にいつも通りに訪れた放課後だった。 今日は部活の活動日ではなかったから早く帰ろうと思っていたら、偶然出会った担任に雑用を押し付けられて。不本意ながらも断りきれずに仕事を片付けたら、中途半端な時間になっていた。 まぁ、この時間ならバスも空いているから悪い事ばかりではないかと、ため息をつきながら乗客がほとんどいないバスの後ろの方の座席の窓側に腰を下ろした。 そして、読みかけの本の続きでも読もうかと鞄から文庫本を出してページを開いた。 …ここまでは、何て事のない日常の一部だったハズ、なのだけど。 * * * …唯人(ゆいと)が本に集中し始めた頃、二人掛けの座席に座っていた自分の隣に、誰かが座った。 空いていた筈なのにわざわざ何故?、という疑問は、この瞬間の唯人の中にはない。 …一度集中すると、周囲の事は意識に入らない性質なのだ。辛うじて、すぐ隣に誰かがやってきたという気配は感じ取る事が出来たが。 「…オイ」 直ぐ隣から、低い声。…低いだけではない、凛とした張りがある躰の奥に直に響くような美声だ。 読書に集中していた唯人には、それが何か美しいBGMのように聞こえていた。 「…オイ、聞いてやがんのか?」 「……………、ぁ、もしかして俺ですか?」 暫ししてもう一度聞こえたそれ。不機嫌そうな響きを宿していても、美しさと気品を失わない声。 無意識にそれに聞き入っていた唯人は、たっぷりのタイムラグの後に自分が呼ばれているらしいと気が付いた。 読みかけページの間に軽く指を挟み、顔を上げる。 ≫ [戻る] |