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アスファルトに咲く花
6

唯人のリアクションがあまりにも落ち着いていたので、龍治もそうか、と頷いただけで完結してしまう。

…会話終了……とはならない。唯人と龍治だけだったのなら確実に此処で終了する話題だが、この場には利也も明良もいた。


「リアクションが薄過ぎる! 俺への愛が感じられへんで、リュウ!」
「唯人! お前この状況でフォロー無しかよっ!」


利也は明良を抱き締めたまま、明良は利也に抱き締められたまま、各々の親友に向かって叫ぶ。

膝を付き合わせた距離感で叫ばれた二人に比べ物静かな二人は、耳を突く声に微かに眉を寄せた。


「…とりあえず」
「そんな声を出さなくともきちんと聞こえますから…」


一つの台詞を二人で割り振り、龍治と唯人はこめかみを押さえた。

…一人ずつなら落ち着いて相手も出来るのだが、二人いると流石に煩い。

やっぱり意外と合いそうなコンビですね、などと思いつつ、唯人は肩をすくめた。傍らの龍治はため息をつく。


「……どんなリアクションが望みなんだ」
「えー? そりゃやっぱ、『可愛いなぁ』とか『流石利也、いいところに目を付けるな〜』とかか〜?」


けらけらと笑いつつ、利也は膝の上で転がる明良を抱え直した。ハッとした明良がじたばたするが、当然拘束は外れない。

そんな親友とその『お気に入り』を眺めた龍治は、心底面倒臭そうな顔をしながら口を開く。


「…『可愛いなぁ』、『流石利也、いいところに目を付けるな〜』…」
「おおきに〜」


…超棒読みだ。ロボット並に感情が込もっていない。

しかも口調がおそろしくキャラに合っていなくて、唯人は苦笑いし、明良はピクリと顔を強張らせた。利也だけがあっけらかんと笑っている。

龍治はリクエストされた台詞をとりあえず読み上げると、これでいいだろとでも言うように肩をすくめた。

…何でもなさそうな彼の態度に、唯人はじわじわと笑いが込み上げてくるのを抑えきれなかった。


「………ふふっ」
「あ、唯人クンにウケとる」
「(お前、この状況でよく笑えるな…!)」


箸を置いて肩を震わせる唯人に、利也からは笑い、明良からは驚愕の視線がおくられる。

隣にいる龍治は、微かに声を上げて笑う唯人を珍しそうに見ている。


「……面白かったのか?」
「えぇ、…あぁ、笑ってしまってすみません」
「…いや、構わない」


口元を隠す唯人に、柔らかな眼差しで応じる龍治。

そんな彼らを間近で目撃した利也はチェシャ猫のようにニンマリと笑い、その腕の中の明良は意外なものを見るように二人を眺めた。


「……仲良しやなぁ、ホンマ」
「…ぇ」


ふわふわと微笑み合う二人には聞こえないであろう、小さな囁き声。利也の腕の中だから聞こえる声で囁かれた明良は、彼を見上げた。


「…リュウがあんな風に笑うんも、唯人クンにだけやろうな」
「………」


幼子の憧憬のような、そんな眼差しで二人を見る利也がどんな顔をしていたかなんて、きっと明良しか知らない。

…知らず手に入れていたものがあるなんて、彼らは知らない。


「…あ」


…遠くで予鈴が聞こえ、利也以外の三人が顔を上げた。一応龍治も、午後の授業には出るつもりらしい。


「…んじゃ、俺帰り迎えに来るわ」
「えっ?」
「…分かった」


校舎に向かう三人に手を振る利也の言葉に、明良は首を傾げたが、龍治は頷いた。唯人は何も言わず、龍治を見上げている。


「んじゃ、また放課後な、キティ」


…最後に自分に向けられた笑顔は、龍治が唯人に向けていたそれに少し似ている、と明良は漠然と思った。


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