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アスファルトに咲く花
私のセカイ

非日常が日常化していく過程において、その日々は驚きの連続だ。



* * *



スパーン!


派手な音を立て、美船高校唯一の“和室”である茶道部の部室の戸が開かれる。

そこに立っていたのはこの場所には不釣り合いな、校内一と言っていい有名人であり県下有数の不良、久藤龍治。

思わぬ人物の突然の登場に、和やかだった場の空気は急速に固まる。


「唯人はいるか?」
「…いますよ。龍治先輩、戸は静かに開けるものですよ」


茶室の戸から顔だけを覗かせ、唯人はいつも通り、否いつもより更に冷静な口調で返す。

木曜は茶道部唯一の正式な活動日。そして今日は予算の都合で毎週は行えない茶会を催す日でもあった。

立てていた濃い抹茶の香を纏わせたまま見上げる唯人に、龍治は眉を寄せつつ言う。


「…放課後、行く所があると言った筈だ」
「今日は放課後部活があるので、その後で伺いますと申し上げた筈ですよ」


にこり、愛らしいまでの笑みを浮かべた唯人は、一歩も譲らない姿勢だった。

その空気の冷たさに、彼らの周りでお茶の準備をしていた部員たちの血の気が引いていく。

周囲の事など眼中にない龍治は、全く引かない唯人に舌打ち小さくした。


「唯人…、」
「今日ばかりは、俺も譲りませんよ?」


力では逆らえない、と悟っているせいもあるが、唯人は基本的に龍治に従順だ。多少の無茶でも、彼が言うならそうと頷く。

それは自分がないという意味ではなく、ましてや龍治にビビっている訳でもなく、元々自分が譲れる範囲ならば相手を立ててしまう性格なのだ。

そんな唯人が、にっこりと笑って否を口に出す。

龍治は暫し険しい目付きで唯人を見下ろしていたが、全くその表情が変化しないのでやがて息をついた。


「…わかった」


根比べで軽く龍治を下した唯人は、貼り付けたようなそれではなく今度は感情を伴った笑みで彼を見上げた。


「でしたらちょうどお茶を立てていた所ですし、先輩も御一緒しませんか? …雪奈(ゆきな)さん、茶器やお菓子は余っていますよね?」


唯人の急な誘いに、龍治はなにより周囲の部員たちも目を剥いた。

ただ一人、先程から凍った空気にも全く動じていなかった少女がのんびりと声を上げる。


「そうね〜、いつもお菓子は余分には用意してあるし、今日のお茶は唯ちゃんが立てるのだし。唯ちゃんのお客様をお通ししちゃいけない理由はないんじゃない?」


のんびりと茶杓を弄んでいた三年生で茶道部の部長である綾瀬(あやせ)雪奈があっさりとそれを快諾し、周囲の部員たちがわたわたともう一人分の準備を始める。

部長がゴーサインを出してしまえば、美船高校の茶道部ではその事は即決定事項だ。例えお客様が断ったとしても、あの手この手で引っ張り込まれる。


「ほら久藤君、早くこっちに入っていらっしゃい。…お茶室の入り口は狭いから、頭をぶつけないように気を付けてね」
「は…?」


久藤君身長高いものねー、なんて地域最強クラスの不良を相手にクスクスと笑う雪奈は、ある意味唯人よりも更に太い神経を持つ剛の者だ。
見た目は如何にも日本風と言った美少女なのだが、…中身はアレである。


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あきゅろす。
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