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アスファルトに咲く花
黄昏と温もり

* * *



「唯人」
「先輩。…帰りますか?」


放課後。SHR終了のチャイムが鳴り響く中誰よりも早く廊下に出た唯人は、ちょうど良いタイミングでやって来た龍治と鉢合わせた。

──偶然という訳ではなく、廊下で龍治を待たせるよりは早々に合流を選ぶ方が、注目を集める時間も少ないだろうと、これまでのパターンを読んでこのタイミングを選んだ訳だが。

唯人の姿を見付けた龍治は、ついて来るよう目で促して踵を返す。
唯人はクラスメイトたちがビクビクと見守る教室に向けて一度会釈し、小走りにその後を追う。


「…バイク」
「え?」
「帰り、バイクだ」


唯人が彼の半歩後ろに並べば、振り返った龍治はそう言った。

唐突なその言葉を理解するまで暫しの間を開け、唯人は訊き返す。


「…えっと…今朝はバス、でしたよね?」
「あぁ」


龍治は頷く。

彼は確かに今朝バス停に佇んでいて、唯人は彼の隣で枕代わりになった。それは、事実だ。

遥かに上背の高い龍治の顔を見上げ、唯人はもう一度訊き返す。


「帰りは、バイクですか?」
「あぁ」
「…龍治先輩、元々バイク通学ですか?」
「……あぁ」


重ねて訊けば、やや間を開けての肯定。唯人は首を傾げる。


「今朝は…?」
「バスだったろ」
「…そうですね」


何故そう何度も訊き返す。そんな調子で彼に言われてしまえば、これ以上の言及をする事は出来ない。

唯人は釈然としないながらも、龍治の半歩後ろに着いて歩く。


(…今朝は…それから昨日は、意図的にバスだった、って事ですよね…)


俺がいるから?、自惚れのような自意識過剰のような考えに首を振るが、それ以外に理由がない。

ふっと、目元に熱が集まったような気がした。


「…唯人?」
「なんでも…ありません」


振り返った龍治の顔を見られないまま、唯人は廊下を歩いた。



* * *



…昼休み訪れた屋上と同じかそれ以上に、学校のバイク置き場は唯人にとって馴染みのない場所だ。

未だ免許を取れる年齢ではないし、誕生日を迎えたとしても多分バイク免許は取得しには行かないだろう。…自動車ならば考えるかもしれないが。


(それに、美船(ウチ)ではバイク置き場は専ら工業科の方々の独壇場ですしね…)


唯人は慣れた様子でバイクを点検する龍治を見ながらぼんやりと思った。

全くバイク関連には明るくないので詳しくはわからないが、その黒の機体は純粋に彼に似合っていると思う。


「……、龍治先輩は免許持ってますよね?」


不良=無免許。偏見かもしれないが、急激に不安になったので訊いてしまう。

龍治はポケットから鍵を取り出しながら顔を上げる。


「持ってなきゃ、通学許可は下りない」
「そうですよね…。……あ、許可はきちんと取ってらっしゃるんですね」


答えつつ龍治がバイクをいじれば、低くエンジンが鳴き出す。

爆音かと反射的に身構えたが、案外そうでもないようでホッとした。


「…無許可だと没収される、ウチの学校は」
「あ、そうなんですか」


意外とそういう所は厳しいらしい。入学して一ヶ月程だし、唯人には縁のない校則だから気にした事などなかったが。


「…行くか」
「あ、はい」


他愛もない会話を交しているうちに、準備は整ったらしい。

頭にポンとヘルメットを被せられ、唯人は顔を上げた。慣れない手付きで、それを固定する。


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あきゅろす。
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