アスファルトに咲く花 3 * * * 「…昨日付けで、[神龍]、久藤龍治先輩の“所有物”になりました。以上」 「──はぁぁっ!!? いじょ、じゃねぇだろっ! 何でお前そんなに冷静なんだよっ!?」 昼休み直後の授業、即ち5限の授業が終了した後の10分間の短い休み時間。 本来なら余裕のある時間をとってゆっくりと話したいのだが、朝と昼の状況をとってみて、龍治はおそらく放課後も唯人を連れ出す可能性が高い。 それならば放課後に明良に状況を説明するのも難しいだろうから、唯人の席が窓際の隅である事をこれ幸いと声を潜めて話出したのだが。 端的、且つ極めて簡潔に状況を述べた唯人に、明良が思いっ切り絶叫してしまった為、二人はまたもやクラス中の視線を集めてしまった。 「…毎度お騒がせして、申し訳ありません」 絶叫したばかりの明良の口を手のひらで塞ぎながら、今日一日だけで自分は一生分の大分の視線を浴びたのではないかと唯人は内心で息をついた。…しかしもちろん、表面上は完璧な愛想笑いである。 唯人が笑いながら頭を下げれば、クラスメイトたちは承知したように各々の作業に戻った。明良が煩いのは、いつもの事だからである。 注がれていたほとんどの視線が散った事を確かめ、唯人は明良の口を塞いでいた手をはずした。すぐさま、開放された明良の文句が降ってくる。 「何すんだよ、苦しいだろ!」 「鼻で呼吸して下さい」 彼の文句など歯牙にもかけないといった調子で、一刀両断。 いつも通りと言っちゃいつも通りな唯人の態度に、明良も諦めた様子で椅子に座り直した。…唯人の一つ前の席からの無駄拝借である。 「……で、何だって?」 「昨日のバスの中で枕代わりにされて、『お前は今から俺のモノだ』と言われたんですよ。…俺にはあの人を拒否するだけの力がないですし、特に暴力等を受けさせられる様子もなさそうなので、過剰な心配は無用です」 「あ…そう…」 あまりに冷静で淡々とした唯人の口調に、毒気を抜かれたよう明良が呟く。 唯人の机に脱力したように顎をつき、そのまま彼の顔を見上げる。 「…でもさ、昼休み戻ってきた時お前何か変だったぞ? 朝もだけど」 「…変、ですか?」 「ボーッとしてるってか、…何かスゲー貴重な雰囲気」 「貴重と言われても…」 それなりな長さの付き合いがある明良だから、唯人がどんな時にどんな態度をとるのかを理解している。そんな明良の言う「貴重」なら、本当に貴重なのだろうが。 「……放心、てか心ここにあらず? …何かを持ってかれた感じ」 「………漠然としてますね」 思い付く日本語を並べているような明良に、唯人は肩をすくめた。 「…そろそろチャイム鳴るからさ、退いてくんないか、沢木」 「うぉぅ、悪いっ!」 クラスメイトの椅子に陣取りながら唯人の机に頭を擦り付けていた明良に、軽い調子の言葉が入る。唯人の前の席の持ち主だ。 ガバッと立ち上がり、唯人と彼に手を振りながら自分の席に走って行く明良を見送りながら、唯人は少しほろ苦い思いで笑った。 …本当に親友は、とぼけているようで鋭いのだから。 ≪ ≫ [戻る] |