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アスファルトに咲く花
2

「……誰だ?」
「え?」


てっきり先に行ってしまっていたかと思えば、龍治は隣の教室の前の廊下で足を止めていて。
明良に声だけかけてきた唯人は、彼の横で同じように足を止める。


「話してただろ」
「…あぁ、友達ですけど…」


そう言う龍治の声と表情は、少しばかり不機嫌そうだった。幾何もない時間とはいえ、待たせてしまったのが悪かったのだろうか。


「お待たせして、すみませんでした」
「………、行くぞ」


素直に謝るべきかと頭を下げれば、何か言いたげな沈黙の後、しかし何も言わずに龍治は踵を返した。
怪訝に思いながらも、唯人もその後を追う。

本来普通科の棟には姿を見せる事のない龍治が廊下のど真ん中を歩く事で、そこには花道が出来ていた。
…人出の多い昼休み、人にぶつかる心配がないのはいいが、居心地の方は頗る悪い。

唯人は龍治の一歩後を歩きながら、誰にも気付かれないようこっそりと息を漏らした。


「…お疲れ様です! [神龍]サン!」
「…あぁ」


そして一歩工業科に足を踏み入れれば、そこは軽い異世界だった。
花道は変わらないが、金髪茶髪の派手に制服を着崩した少年たちが、龍治に向かって頭を下げる。

…あぁ、これが噂に聞く舎弟というものなんですね…、と唯人は少しズレた感想をその光景に抱いた。ところで、何をもってお疲れ様なのだろうか。


「唯人」
「…ゎっ、…はい?」


何も言わず前を歩いていた龍治が突然立ち止まって振り返り、唯人は思わず彼の胸にダイブしかけて慌てて踏みとどまる。


「…お前、購買か?」
「昼食ですか? いえ、お弁当ですが…」


一応今持ってますが、と唯人は手にぶら下げたままだった包みを持ち上げた。

それを見とめた龍治はならばそれでよいと無言で頷き、花道を作っていた少年の一人に数枚小銭を投げた。


「へ?」
「俺のだけでいい。適当に買ってこい」
「…、は、はいっ!」


唐突なご指名を受けた金髪の彼は一瞬目を丸くしたが、事態を認めると一階の購買を目指して走り出した。

それを見送った唯人は、今度は初めて見た生パシリに妙に感心していた。


「唯人、行くぞ」
「ぁ、はい」


ポーっとパシリな彼が消えていった階段を眺めていれば、それを反対に上って行く龍治が唯人を呼んだ。
再び前を向き、彼の後を追う。

…既に最上階であるここの階段を上がる彼が向かう先は、屋上だろう。


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