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アスファルトに咲く花
4

膝の間に座らせた明良を肩まで湯船に浸からせ、その躰を後ろから抱き込むように座る。

抱き寄せた背中が、緊張したようにビクリと震えた。


「……俺に触られるの、そんなに嫌か?」
「えっ!? い、いや…そんな事は……」


わざと、寂しがるような響きを載せて耳元に囁けば、律儀にビクッと震えた明良が戸惑ったように声をあげて肩越しに振り返った。

その真っ赤な頬は、湯煙で逆上せているだけではないだろう。


「い、いやなんかじゃないけど…。…だけどただ、ちょっと恥ずかしいから…」
「…うん」


濡れてしんなりとした栗色の猫っ毛に指を絡めると、明良の肩は小さく震えたが抵抗はされなかった。

押して駄目なら引いてみる作戦は随分と効果があるようだな、と利也は内心で笑う。もちろん表面上は、しおらしい表情を保ったままだ。

濡れた髪から項、肩へと指を滑らせていくと、明良が不安げな表情で此方を見上げた。


「…あ、の……利也…」
「ん?」
「指、ちょっとくすぐったい…」
「ん、そっか」


戸惑ったようにふるふると首を振る明良に、クスリと笑う。

敏感な明良にまた悪戯心が湧き、肩から脇へ指を滑らせるとバシャリとお湯が跳ねた。


「ひゃっ!? っ、利也…!」
「…ん、悪りい」
「悪いなんて気持ちがこもってない…!」


おざなりに返すと、また真っ赤になった明良にも悪戯心がバレてしまったようだ。

再び足の間で暴れ出そうとする躰を、両腕で抱き締める事で拘束する。


「っ、放して…!」
「放したら逃げるだろ?」
「別の風呂行く!」
「うん。なら俺と一緒な」


じたばたと暴れる明良を宥め、利也は湯船から立ち上がった。

床が濡れているにも関わらず走り出そうとした明良の首根っこを掴み、適当に周囲の風呂を物色する。


「どうする? あの檜風呂っての入るか? それともサウナでも行く?」
「は、離してって…! 苦しい…!」
「いや、だってお前、こんなトコで走ると滑るぞ」


猫の子のように首根っこを掴まれた明良は何とかして逃れようと足をばたつかせていたが、案の定途中で足を滑らせて利也に抱き寄せられた。


「ぎゃっ!?」
「…ほら、だから言っただろ」
「うぅ…」


まだ早い時間な為人気は多くない。…とはいえ、客は彼らだけという訳では決してない。

騒がしい若い二人組は、周囲から物言いたげな視線を受けており、肩をすくめた利也は明良を連れて屋外の露天風呂へ向かった。

外へと続く扉を開けると、ひゅうとやや強い風が吹いた。隣の明良が小さくくしゃみをする。


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