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アスファルトに咲く花
2

「…随分と、好都合な部屋に通されたみたいだな」


唯人の隣に立った龍治が、ぼそっと唯人にだけ聞こえるように呟く。

その意図を察してしまった唯人は、僅かに頬を朱に染め上げた。


「…利也、お前どっちの部屋を使う?」
「ん? …あぁ」


ニヤリと唇を歪め言った龍治に、利也の方もその意図を察したらしい。

唯一明良だけはきょとんとしていたが、利也に水を向けられて上擦った声をあげる。


「キティ、お前はどっちの部屋がええ?」
「へっ? …あっ、うぇっ!?」


いつの間にかペア同士――カップルで寝室が別れる流れになっている事に、遅ばせながら気が付いたようだ。

利也がニヤニヤとしながら明良の肩を引き寄せ、その耳元に吹き込むように囁く。


「…今夜は、逃がさねえからな」
「!」


腰に響く低音ボイスに耳まで真っ赤になった明良が、ぺたんと畳の上にへたり込む。


「…オイオイ、腰抜かすにはまだ早いでー」


一瞬で色気をしまい込んだ利也が、明良の旋毛をつついてけらけらと陽気に笑う。

そんな変化には当然ついていけない明良は、呆然と腰砕けになったままだ。


「…見たところ、左右の部屋に大した相違はないようですよ。どちらがどちらでも、そんなに変わらないんじゃないでしょうか?」


両側の寝室の襖を開け、内装を確認した唯人が言った。

襖を開け放って左右の部屋を見渡すと、シンメトリーな造りになっているのが見てとれる。


「…ふぅん、面白い造りの部屋だな」
「そうですね」


唯人の後ろから部屋を見渡し、龍治が呟く。

明良は暫く使い物にならなさそうだし、此方で勝手に部屋を決めてもいいだろう。


「…では、俺たちは左の部屋を使わせて貰いましょうか」
「あぁ。…利也、お前らは右で構わないな?」
「構わへんで。……ほら明良、いい加減立ち。荷物移動させるで」
「…えっ、あ、うん…」


さくさくと部屋を決めた唯人と龍治は自分たちの荷物を左側の部屋に運び、利也も座ったままの明良の後頭部をつついて移動を促す。

まだ正午をいくらか回ったといった時間なので、寝室だとはいえ布団はまだ敷いていない。

時計を見上げた唯人が、ゆるりと首を振る。


「……まだ夕食にも、温泉に入るにも早い時間ですね。旅館の周りでも散策してきましょうか?」
「そうだな」


唯人の言葉に龍治は頷いて腰を浮かすが、反対の部屋に陣取った利也は苦笑して肩をすくめた。


「…あー、俺たちは後で向かうわ。二人は先行っといてや」
「えっ?」
「あ、はい、分かりました。…では行きましょう、龍治」
「あぁ」
「えっ、…えっ?」


俺たち、と当然のように一括りにされたが、明良自身の意見は訊かれもしない。

戸惑った明良がきょろきょろと親友と恋人とを見比べているうちに、唯人たちは部屋を出て行ってしまった。


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