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アスファルトに咲く花
2

「…えーと、今のところとりあえず何の予定も無いですが…」


カレンダーを見上げながら答えると、電話の向こうで愉しげに笑う彼の声。


『そっか。…んじゃ、ソコ、俺の為に空けといてや』
「へ…」


不思議な物言いに、明良は一度パチリと瞳を瞬かせる。

一瞬、彼の声がとても甘い響きを持ったような気がしたのだが……、いや、きっと携帯の電波の悪戯だろう。きっと。

明良はほんのりと赤くなった頬を誤魔化すようにふるふると首を振り、利也に訊き返す。


「えっと、また<首無し>に…?」
『んーん、じゃなくて週末は別のトコ行こかと思て』
「別の…?」


電話を耳に当てたまま、明良はゆるりと首を傾げる。

電話番号とアドレスを交換した日、また<首無し>に誘ってもいいか、と利也は言っていたから、てっきりそれだと思っていたのだが。

僅かに戸惑う明良に、電話口の利也は悪戯っぽく笑う。


『ダイジョブ、キティも喜びそうなトコやから』
「何処に行くんですか?」
『ナーイショ』
「えー…?」


語尾に音符マークでも付きそうな程明るい口調で言い切った利也に、明良は不満混じりに声をあげた。

…不良の溜まり場である<首無し>に行くのにはなけなしの勇気がいるから、別の場所に行くというのには不満はないのだけれど。

ただ、彼がこんなにも楽しそうに「内緒」と言われるその場所に、一抹の不安を覚えるのはある種仕方ないだろう。

電話口で唇を尖らせる明良の姿が利也に届いている筈はないのだが、彼はクスクスと愉しげに笑った。


『サプライズもええやろ?』
「…いいですけど、俺の心臓が保つ程度にして下さいね…」


明良はため息を吐きながら言った。

自慢じゃないが、自他共に認める蚤の心臓の持ち主である。切実に、あまりドッキリが過ぎないようにして欲しい。

明良の言葉の意図は通じたのだろう、クスクスと涼やかに笑う利也が、軽い口調で大丈夫大丈夫と繰り返した。


『ちゃーんと楽しませたるから、大船に乗った気でいいや』
「…そりゃ、俺には過ぎる大船でしょうけど…」


族の総長様で、超絶美形で。明良には勿体無いくらいの『大船』である事くらい、最初から知っている。

卑屈に呟いた明良に、利也が電話の向こうで苦笑いした。


『…俺がお前を連れてきたいだけやから、キティはただ頷いたらえぇ』
「…はい」


傲慢とも取れるその台詞の裏には、彼なりの気遣いがある。…それに気付いた明良は、小さくはにかんで頷いた。


『…んじゃ、詳しい日程はまたメールするからな』
「はい」
『…んじゃ、おやすみ、キティ』
「…、おやすみなさい」


明良が挨拶を返すと、ツーツーという無機質な機械音。

…最後のおやすみの声がやっぱり甘ったるかった気がして、明良は黙ったまま枕に顔を埋めた。


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あきゅろす。
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