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57.過去
毎夜のように見る夢。

あの夏の夜の夢と、もう一つの。

考えたくなかった。

浜辺の石をひっくり返した時のように、裏に隠れて見えないものを光のもとに晒すようで。

けれど

孝博にも、芳巳さんにも、滝沢先生にも心配をかけてしまっているのに逃げてばかりもいられない。

それに、逃げれば逃げるほどもっと怖くなる。

だから確かめた。

夢の意味を。

母さんに聞いたのはただの推測でしかなかったけれど・・・。


「やっぱり、覚えてない?」

母さんは困ったように僕に確かめた。

「・・・そうみたい」

ずっと、母さんたちの本当の子供だと思っていたと言おうとして、けれどもそれは言葉にならなかった。

「かなちゃんの本当の父親が私の母方の従弟なの。いろいろと事情があって、かなちゃんが6歳の時に私たちの養子になったのよ。」

母さんはそう言うと、困ったように首をかしげた。

「引き取ってしばらくして、かなちゃんが引き取る前のことを覚えてないみたいだと気付いたわ。多分、忘れる必要があったと思ったから、私たちは何も言わなかったの。・・・何か、思い出したの?」

その質問に、僕は曖昧に首を振った。

母さんは「そう」と言っただけで、特に追求したりはしなかった。

ただ、心配そうに僕を見て「病院とか行きたいなら連れていくから」と言った。




その夜、様子を見に立ち寄った孝博に僕は今日知ったことを打ち明けた。

孝博は僕の勉強机の椅子に座って、ベッドに腰掛ける僕を見下ろしてたけれど、ほとんど驚いた様子は見せなかった。

「お前、知らなかったんだな」

孝博の認識ではこうだ。

小学生の頃、僕は突然今の家に住むようになった。

孝博は僕のことを「館斐家の子供」とだけ紹介されたため、僕が館斐家の養子であると察したのは中学に上がる頃だったらしい。

ただ、僕自身が引き取られる前のことや本当の両親について何も言わなかったので、言いたくないことなのだろうと触れずにいた、らしい。

「初めて会ったとき、お前すごい人見知り状態で、誰の傍にも寄り付かないで一人で遊んでたよ。学校でも、誰か話しかけると警戒して睨みつけてたし。」

そんな話を聞いても全く覚えがない。

「転入して半年くらいはよく熱出したとかで休んでて、その度に俺が学校のプリント届けてたけど」

孝博が覚えてるか?というようにこちらを見る。

僕は戸惑いつつも首を振った。

「・・・行くたびにおばさんがお前の部屋に通してくれるからさ、今日何した〜みたいな話を少しずつしてたら、段々お前も話すようになってきたんだよな。半年くらいかかって」

我ながらすごい忍耐力だよな、なんて自画自賛する孝博だけど、本当にそうだなと思う。



そんなに長い間の記憶がないというのは、やはり幼いから覚えてないという範疇を超えているように思える。

やっぱり、僕には欠乏している記憶があるのだろう。

生まれてから、館斐家に引き取られて馴染むまでの記憶が欠乏しているのだ。

「・・・孝博」

孝博は僕が考え込んでいるのを静かに見守っている。

ひどく、気を遣わせてしまっているのだな、と思う。

孝博にそうさせるのは僕が養子であることと関係があるのだろうか。

顔をあげて孝博を見る。

いつものまっすぐな目が見返してくる。

僕は口を開いた。

「今日、泊っていってよ」



話したいことがあるから。




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