51.温度
気がついたら、僕は頭を抱えて蹲っていた。
それだけでなく、丸くなったまま誰かに抱きしめられていた。
「・・・・・・」
状況が理解できなくて、おそるおそる顔をあげる。
それと同時に、身体に回されていた腕が少し緩む。
「落ち着いたか?」
耳元でささやかれて、腕の持ち主が誰かわかってしまった。
それと同時に、間近で目が合う。
滝沢先生。
先生は眼鏡をかけていなかった。
混乱している僕の様子を見てから、先生はするりと体を離した。
先生が離れたことで、自分がいる場所が見えるようになった。
社会科準備室だ。
いつのまに移動したんだろう。
疑問だらけの現状に必要以上にきょろきょろとしていると頭に軽い衝撃がきた。
先生の手だ。
くしゃくしゃ
そのまま撫でられた。
まだ至近距離にいた先生を見上げる。
「・・・館斐、お前、・・・悩み事があるんじゃないのか」
僕の頭に手を置いたまま、先生が聞いてくる。
「悩み・・・?」
「誰か、相談できる人間はいるのか」
いつもと同じように淡々と紡がれる先生の言葉。
けれどその内容はいつもと全く違う。
僕は呆然としている時はなかった恐怖がじわじわと戻ってくるのを感じていた。
「・・・はい、まあ・・・」
先ほど拒絶した顔が浮かぶ。
「そうか」
くしゃくしゃ
先生の手が離れる。
「俺も、聞くから。言いたいことがあればいつでも来いよ。」
いつも眼鏡の向こう側にあるせいか。
眼鏡なしで見ると、先生の目には感情が表れていた。
何故、何かを耐えるような目をしているのかはわからなかったけれど。
曖昧な返事しかできずに部屋を出た瞬間に予鈴が鳴って。
慌てて時計を見ると、確かにお昼休みが終わる時間だった。
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