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5.親友


最近の僕はおかしい。

誰かと話していてもぼうっとすることが多いし、理由もなく赤面したりして、怪しいことこの上ない。

今日も体育でぼうっとしていたら後頭部にボールがぶつかってたんこぶができてしまった。


放課後。

いつもは一人で帰るのだけれど、今日は僕の目に余るぼけぶりを心配した孝博と一緒に帰ることになった。

孝博は幼稚園時代からの幼馴染で、腐れ縁としか言いようがないけどずっと同じ学校に通ってきた。

家も近所にあるからしょっちゅうお互いの家に入り浸っていた。

彼は誰からも好かれる明るい世話好きタイプで、高校からはクラスも違うしサッカー部に入っているしであまり学校で一緒にいることはなかったけれど、それで自然に疎遠になるほど短い付き合いでもないわけで。

こうしてちゃんと見ていてくれている。


「ほんと、どうしたのお前。」

「うーん・・・」


孝博とは兄弟みたいに身近に育ったわけで、今まで何も秘密なんてもってなかった。

それはもういやというほどお互いのことを知り尽くしている。だけど・・・

い、言えない・・・・・・

男に惚れてます、なんて。

しかも―――


・・・や、やっぱり、いくら孝博だってなぁ〜・・・


「―――紀(かなめ)」


心の中で唸っていたら、珍しく真面目な口調で呼ばれた。

横で自転車を引いている孝博の顔を見上げれば(先生には全然及ばないけど、僕よりも5センチは高い)声と同じ、真剣な顔。


「秘密を持つなとは言わない。でもお前って一人で考えるとどつぼにはまるタイプなんだからな。そこんとこ、自覚しとけよ。」


そうだった。

僕は一人で悩むということが苦手だ。

・・・でもなぁ。


同性愛。

先生と生徒。

それでもって僕のぼんやりの原因が・・・


世界史の授業中。

一番後ろに座っていたのでその日の提出課題を後ろから順に集めながら教壇のほうに歩いていた。

差し出されるプリントの名前を確認しながら歩いていたため、最前列に座っている奴の机の横にかけられた傘に気づかなかった。

思い切り躓いて、転ぶ、と思った。

先生の、ちょっと甘いコロンが香った。

そして、微かな煙草の匂い。

僕は先生に体当たりをかましたらしい。

といっても、ウェートの差で先生はよろめきもしなかったから、自然僕を受け止めることになったわけで。

その日は動揺を鎮めるのにいっぱいいっぱいで授業どころではなかった。

翌日も、その翌日も、日をおう毎にあの時の感覚は鮮明になっていって、度々先生の感触が思い出されてしまって・・・


体が熱くなる。


「おい・・・紀ッ」


腕を引っ張られて引き戻された。

すぐ目の前を車が通り過ぎる。

気づけばそこは横断歩道で、信号は赤。

横を見れば憤怒の形相も凄まじい孝博。


「お前なぁ・・・」

「―――わ、わかりました。話します。」


親友よ、どうか見捨てないでくれよ。

僕はここ半年ばかり僕のうちに渦巻いていた感情を初めて口に出した。

孝博は最初は少し驚いたようだったけれど、僕の懸念に反してあっさり納得してしまった。


「ま、そうゆうこともあるよなー、お前の場合。」

「は?」

「いやなんか雰囲気ってゆーの? なんとなく。」


どういう意味だ? 僕がホモくさい顔でもしてるっていうのだろうか。


「で? それがどうお前のボケぶりに関係してくるんだ?」

「・・・・・・・・・」


めげそうになる気持ちを励まして、全部語った。

孝博は―――


「何もそんなに笑うことないだろッ」

「だ、だってお前、だってお、まえッ〜〜〜〜〜〜ハッ・・・くくく〜〜〜〜〜〜」


息も絶え絶えに笑っている。

何がおかしいのかいまいちよくわからないが、彼はとにかくひたすら笑っている。

横断歩道の前で腹を抱えている孝博を見下ろしながら僕は彼の自転車を支えている。

もう3回は信号が青になっているんだけど・・・


「〜〜〜〜はあはあはあ・・・ふう〜・・・や、ごめん・・・気にしないでくれ。」

「・・・・・・・・」


ようやく笑い終わったらしい孝博が目尻の涙を拭きながら立ち上がって僕の支えていた自転車のハンドルを握った。


「さんきゅ」


僕の胡乱なまなざしは変わらない。


「―――とにかく、これだけは言っといてやる。自分をしっかり持て。」

「は?」

「お前の気持ちもわかる。が、思い出し欲情とかそういのは一人で・個室で・安全な場所でやれ。なに、へロヘロになるまで出し切ってしまえばある程度はコントロールできると思うぜ。そんなことで事故って死ぬなんて情けなさ過ぎるぞ?」


何かすごい言い回しの単語を聞いたような気がするが・・・確かにそれで死ぬのはあまりにも情けない。

・・・しかし、孝博はどうやら僕が思っていた以上に屈託のない性格だったらしい。

良く言えば頭の柔らかい、

言ってしまえば本能型?


「それと、俺バイなんだよ」


―――――――――――――――


・・・・・・・・・・


「今、なんていった?」

「俺、バイなの。」


何故僕は今親友のカミングアウトをくらっているんだろう。


いや、そんなことより、孝博は、バイ。


「だから別にお前が男を好きだろうが気にしないから。というより相談に乗ってやれると思うぜ。いろいろと。」


僕はなんだかその場にへたり込みそうになった。
いろんな意味で。




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