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42.休み明け
「はあ。」

新学期、挨拶も早々に赤井は大きなため息をついた。

「なんだよ、赤井」

怪訝そうに聞く中井に、赤井はため息で答える。

その時ちょうど登校してきた辻井が後ろからやって来て赤井の頭を叩いた。

「いてっ」

「わかりやすく落ち込んでんじゃないよ。」

「だってさ・・・」

「はよ、辻井。おめでとさん」

「おめでとう。こいつ、駅伝で応援してた大学が負けてずっとへこんでんだよ。ったく・・・」

「駅伝かよ」

「うるせぇ。いいとこまではいったんだよ・・・ただ、山でだな――」

「赤井、悪い。俺陸上はわかんねぇよ。正月も練習だし。」

「中井〜〜」

「お前がやってるわけじゃねぇんだから落ち込んだって何の役にもたたないだろ。そんなことしてる暇があったら走りこめば。」

「辻井ぃ、お前まじでドライすぎ・・・俺は泣きたい」

「・・・はいはい、よしよし。」

「わお、おざなりぃ」

「あほめ」

机に突っ伏す赤井の頭をぽんぽん、と叩く。

少し安心した。

大丈夫だろうと思っていたけれど、やはり落ち着いている。

少しだったけれど、他人に触れるのが怖くはなかったし、僕の席の周りに皆集まっているため自然と辻井と中井に見下ろされる形になるのだけれど、体が震えだす事もない。

休んだかいがあったということだろう。

「おはよう〜」

そんなことをしているうちに先生が入ってきて、皆が席に戻っていく。

生徒がそろっている明るい教室は、まだどこか遠い場所のように思えるけれど、あの漠然とした不安を感じることはなかった。





学校が半日で終わって、久しぶりに孝博と帰ることになった。

顔を合わすのは初詣に誘われた日以来だ。

孝博は休み中バイトに明け暮れていたらしい。

「イベントの設営でさぁ。朝から晩までこき使われたわ・・・」

そう言われると心なしかやつれているように見える。

「そんなにお金貯めて何かするの?」

「バイクだよ、バイク!」

何かスイッチを押してしまったらしい。

尋ねた瞬間にすごい笑顔になった。

「まだ400しか無理だけど、欲しいのがあるんだよ。これがかっけくてな」

「ふうん」

「ガソリンとかメンテとかいろいろあんだろ? 結構厳しくてさぁ。稼げるときにガッツリ稼いでおきたかったわけよ。」

大変、と言いながら笑顔だ。

好きなんだな、と思いながら僕は生返事を返した。

そういえば、来週からアルバイトが始まる。

休み中は考えないようにしていたけれど、接客をしなくてはならないのだ。

一時期よりは落ち着いていて身動きできなくなるなんてことはなくなったけれど、接客となると話は別だろう。
できるだろうか・・・。

「おい、紀? きいてんのかよ」

孝博が呼びかける。

振り向くと少し不機嫌そうな孝博がこちらを見ている。

「ん? うん」

「嘘だろそれ」

「はは」

昼は晴れていたのに、いつの間にか空が灰色になっている。

夕方には雨が降りそうだなぁ・・・。




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あきゅろす。
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