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39.天井

クリスマス当日。

朝、僕は体を起こすことができなかった。



前日、孝博の家族と一緒にクリスマスパーティーをし、例年通り僕と孝博は両親たちを残して僕の部屋に引き上げた。

例年通りならだらだらとゲームをしたりして夜遅くまで過すのだけれど、僕の顔色を見た孝博が早々に寝ようと提案してそのままベッドに入った。

疲れていたし、明日が休みだということもあって眠気が凄い勢いで襲ってきたんだけれど、孝博がいるからだろうか。

眠りはいつも以上に浅く、夢を見そうになっては何度も意識が浮上する有様でとても眠った気がしないうちに明るくなってしまった。


そして早朝、バイトに出かける孝博を見送ろうとして、起き上がれなかったのだ。

「いいからそのまま寝てろよ。・・・またな。」

孝博は他に気になることでもあるのか、険しい顔をしてそのまま部屋を出て行った。

一人になって、辛うじて上げていた頭も枕に沈む。

いつもの3倍くらいの重力がかかっているみたいだ・・・すごくだるい。

扉が閉められた瞬間から、部屋の様子が違って見える気がする。

無機質で、遠くて・・・まるで夢の中にいるようだ。

このところずっと気を張っていたから疲れが出たのだろう。

二週間もない冬休みだけれど、それでもその間休めるのはとてもありがたい。

少なくとも三日ほどは外に出られそうもない・・・出たくもない。

「・・・・・・」

ベッドに横になって天井を見上げていると、以前は覚えていなかった夢の内容が蘇ってくる。

その殆どは混沌としていて、ただ感情の不協和音のようなものを感じるだけだ。

たまに見る形のある夢といば、なんでもない日常の光景だ。

クラスメートや家族、特に孝博なんかは多く出てくるのだけれど、その中に僕の存在はない。

僕のいない無音の日常が流れていく夢。

思い出せる夢はそれだけ。

浜辺の夢は、一度しか見ていない――覚えていない。






階下から物音がし始めて、首だけ動かして枕もとの時計を見れば11時を指している。

随分長い間呆けていたらしい。

孝博が出て行ったの何時くらいだっただろうか。

それとも、少しは眠っていたのか。

ぼんやりととりとめもなく考えていると、今度は部屋のドアがノックされる。

「紀? いるの?」

母さんの声だ。

どうやら孝博が出かけたことには気付いているらしい。

もう一度時計を見ると、短針は12を指している。

――また時間が経っていた。

「・・・うん。今日は一日寝てるよ。」

頭が寝ぼけた状態のままらしく、ぼうっとする。

構われたくなくて出した声はいつもよりも小さく、弱弱しいものだった。

「・・・入るわよ」

一拍間を置いて、母さんが入ってくる・・・瞬間、部屋が少し明るくなった。

ベッドに寝ている僕を見ると、ゆっくりと近づいてきてそっと額に手を置く。

「・・・大丈夫なのね?」

じっと表情の読めない瞳で覗き込まれ、僕は瞬く。

「眠いだけ。・・・ご飯はもう食べたから。」

「・・・そう。」

熱がないことがわかったのか、それ以上何もいうことなく、母さんは部屋を出て行った。

その気配も冷めやまぬうちにまた意識がぼんやりと・・・そう、遊離しだす。

音が遠く、認識できなくなり、視界ぼんやりと遠くなっていく。

とにかく、疲れている。

――疲れているのだ。




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