2.社会科準備室
ある日のこと。
先生の授業が終わって、ふっと吐息した時だった。
「館斐(たてい)、」
ドクッ
心臓一瞬止まったぞ。
びっくりした。いきなり呼ぶなよ・・・
「はい。」
席を立って先生の元に行った。
先生は黒板に掛けて説明に使っていた世界地図を丸めて僕に渡した。
今日はやたらと図を使って説明していたので資料が多い。
僕とほぼ同じくらいの幅がある地図が3つ。
その他写真やら小物やらを入れた籠が一つ。
先生は僕にその3つの地図を渡したのだった。
「手伝って。」
「あ、はい。」
何で僕なんだろう。
先生に授業以外で直接話しかけられたことが嬉しくて、普通に返事できたろうか心配になった。
「あの、先生。」
「ん?」
先生の斜め後ろを歩きながら声をかけてみた。
心臓はばくばくいうし、冷や汗はかくしでなんかやばい病気みたい。
「なんで僕なんです? 教科係、別にいるのに・・・」
ウッ、バカッ!
まるで迷惑だと思っているみたいな言い方っ・・・あ、でもここで嬉しそうに聞くのも気持ち悪いのかな・・・どうなんだろう・・・
「あのクラスで一度も寝ないで俺の授業を聴いているのはお前だけだからな。」
ひ〜! 先生ッ、なんてことをッ
う、ななななきそう・・・
それ以上何か言われたら自分がどうなるのかわからなかったので、僕は「はあ・・・」と生返事をしたきり黙った。
社会科準備室に着いて、抱えていた地図を指示された場所に置く。
先生のテリトリー。
そこら辺に無造作にいろいろな資料や本が置いてあって、下手に動いたら踏みつけそうな乱雑さ。
見た目はきっちりしているのに、こういうところは不精らしい。
「ありがとう。助かった。」
先生の香り。
先生が通った後にいつも香る、少し甘いコロンの香りとコーヒーの残り香。
コーヒー、好きなのか。
「いえ。ではこれで・・・」
「ああ」
僕は先生を直視することなくそそくさと部屋を後にする。
先生の香りがする部屋にいるだけでおかしくなりそうだった。
「失礼します。」
振り返ってドアを閉めるとき、僕は真正面に立っている先生と目を合わせないように彼の足元に目を落としていた。
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