18.昼休み
「はあ〜。オレ、やっぱ化学だめだわ。数学以上にだめ。化学式見ると頭痛くなる。」
「英語もだめじゃん。」
「だからだよ。アルファベットと数字が二つそろってんだぜ。どんだけだよ。」
「俺も得意じゃないけどさ、お前その発言は頭悪すぎだろ。」
「お前の発言は性格悪すぎ。」
「あ?」
「まあまあ」
「しっかし、大崎のあの口調で言われると頭ぐつぐつしてこね?」
「うーん、眠くはなるかも。催眠暗示みたいに。」
「これからしばらく計算ばっかだよ。期末は死ぬな・・・」
「今からそういう話すると鬱になるからやめろ・・・」
昼、昼食を一緒に食べる四人の友人の内の一人、中井知雄が部活の先輩に呼ばれたとかで、今日は三人でお弁当をつついていた。
窓際の真ん中の席を占拠する赤井光彦と、その周りの机を拝借して適当にくっつけて座る僕と辻井亮太。
赤井とは一年の時からの友人で、他の二人は二年になってから知り合い、こうして昼を一緒に食べるくらいの仲になった。
普通に話をするけれど必要以上に詮索しない。
感情を求められない。
言ってしまえば当たり障りのない関係を、僕は嫌いではなかった。
特に最近は、こうした時間が一番落ち着く。
「ところでさ。屋上って行ったことある?」
赤井が彩りのあるお弁当から出汁巻き卵をつまみながら、唐突に質問してきた。
因みに彼の弁当は調理学校生の姉が作ってくれているらしい(羨ましい・・・)。
「屋上?」
そんなのあったっけ、と記憶を探るが、そもそも僕が知っているのは授業で使う場所と一時期お昼を食べていた裏庭くらいだった。
「普段は鍵掛ってんだろあそこ。」
辻井があっけなく返答。知ってるんだ・・・。
「それがさあ。この前小耳に挟んだんだけど、あそこ密かにたまり場になってるらしいぜ。ほら、新藤っているじゃん。あいつのグループの。鍵持ってるかなんかで、入り口とか下から見えないところでたむろってるらしい。」
「へえー。屋上入って鍵閉めちまえば他の生徒は入れないしなあ。ほんとだとしたら上手いことやってんなあ。」
「どうやって鍵手に入れたんだかな・・・。」
「あの・・・新藤って?」
「何、館斐知らない? 昨年、クラスでも騒いでただろ。B組の新藤真人ってやつが体育の上田殴って謹慎食らったって。」
ちなみに僕と赤井はDだった。
現在はC組。
「言われてみればいたな。そんなの。」
その新藤か、と納得する僕を呆れたように見て、辻井が言葉を引き継ぐ。
「それって実際は上田の方が他の生徒殴ったからなんだけどな。体罰にかこつけて足遅いやつとか、できないやつに暴力ふるったって。殴るのとはたくのの微妙なラインで、やられた奴も問題にするのに迷ってたかんじなんだけどさ。口では結構言われてたけど。その後すぐ上田は自主退職だし。」
やたらと詳しい説明に、赤井と思わず顔を見合わせてしまった。
「もしかして、一年の時B組?」
「そ。なんかピンポイントでBが気に入らなかったらしくてさ。あいつの授業まじで最悪だったよ。」
「俺らDは担当からして違ったからなぁ。上田とか顔も覚えてないわ。」
「上田が担当してたAからCの奴らは普通に知ってるけど、他はそんなもんかもな。俺らも新藤がおもっくそ上田どついたの見て気が済んじゃったし。」
「そういうもんなの?」
「今にして思えばBは問題児多かったからな。そんなもんだったな。」
なんか、学校の別の一面を見てしまった感じだ。学力レベルでは中の中、どちらかというと下よりのこの学校にはのんびりした性格の生徒が多く、校風もそれに沿っているので、繁華街から離れていることもあってほのぼのとした空気に満たされている、と思っていたんだけど。
「なんか、はいすくーるらいふって感じだね。」
端的に感想を述べようとして失敗した。赤井と辻井の「何ソレ」といわんばかりの眼差しにあい、慌てる。
「ごめん、違った。例えるなら、中学生日記みたいだね的なことをいいたかったわけで・・・」
「や、例えなくていいし」
赤井、容赦ない。辻井はその何この子みたいな目、やめて。
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