short (ss) 君にyell A (リクエスト) もうワケがわかんねえよ… こんなに頭を抱えることは、あまりなかった。 これが現実だって?ついていけない。 目の前にいる女性は、20歳くらいの大人で。 どうでもいいがどちらかといえば、見た目は美人の部類に入る。 「ねえ、サスケくん。サスケくん知らない?…あ!えっと、あの、あなたじゃなくて、大人の方のね」 もう、今日という日がわからなくなってきた。 結局、あの男は「確認することがある」とか何とか言って、サクラの家へ行った。 何故か信頼しきっているサクラの気が知れないが、そんなことはもうどうでもいい。 気になるのはアイツが「サクラを探す」と言っていたことだ。 目の前に居たじゃねえか。 ホイホイと手を引いていったのが、サクラだろう。 もうワケがわかんねえよ。 複雑すぎてイライラしながら帰ると、オレの家には呼んだ覚えのない客が居た。 それが、この女だ。 桜色の髪で、翡翠色の瞳で。 背丈はオレよりも高いが、どう見ても『サクラ』だろう。 「あ…、私、サクラよ。わかるかな…?」 「……何となく分かる。さっきまで似たような奴がいたから…」 力なく応える。 さっきのあいつは本当にオレだったということなのか。 首を傾げながら見つめるその女に、オレは益々力が抜けていった。 「もう、こんな時間ね。待ってたら来てくれるかな。ごはんつくるね」 「……はぁ!?おまえ、人ん家で勝手に何してんだ!!」 「何って……、いつものことだけど…」 もう、ワケがわかんねえ…。 いつもってなんだよ。 何でこの女、オレん家の台所の勝手を知っているんだ。 いや、それよりも。 「なあ…、アンタが待ってるのって…」 オレの知っているものよりも少し落ち着いた、翡翠の瞳と、ぶつかった。 「サスケくんよ」 事もなげに答える彼女にどこかで、やっぱり、という思いがした。 見る間に鍋やら食材やら調味料を並べていき、包丁がトントンと小気味よい音を立てる。 慣れているのだろう。 何故かその場から離れられなかった。 随分経ってから気付く。 台所に立つその後姿と、かつての母の姿が重なっていた。 「それって…つまり…」 ん?と振り返る彼女は、優しい眼差しで。 ―――――綺麗な人だと思った。 何でもない、口の中で呟くと、台所を後にした。 「おいしい?」 「…………まずくはない」 正直、驚いた。 同じ班員のサクラは、家事全般ダメなものだと思っていたからだ。 焼き肉でさえ、焦がすような奴だ。 人間、努力すれば克服できる事が多い、というのは本当なのだろう。 そしてその努力は、間違いなくオレ…というか『待ち人』のためのものだったのだろう。 「……なぁ」 「ん、なぁに?」 「……アンタ、もしかして、ずっと」 その時、玄関で物音がした。 続いて、歩幅の大きくて早い足音が近づく。 反射的にオレは、『サクラ』を背にして、身構えた。 「おまえは…!」 再び現れたのは、予想通りのアイツ。 その切羽詰まったような形相に、ただならぬ雰囲気を感じたオレは、クナイを握りしめる。 しかし。 背の後ろから、その人は、するりと追い抜いていった。 「…サスケくん…っ」 その瞬間。 一瞬、ほんの一瞬だけ。 オレは、『届かない』という思いがした。 アイツは守れる大人で、オレは非力な子供。 綺麗な人が、行ってしまう。 ―――――もしかして、ずっと。 オレのこと、追いかけていたのか…? 心外極まりない。 処理しきれない気持ちが溢れ、少しだけ、顔をしかめた。 「サクラ…、此処に居たのか」 アイツは、サクラの姿をみとめると、安堵したように破顔した。 鋭い目つきが、一瞬で消える。 そのことに呆気にとられる。 いや、やっぱりオレじゃねえよ……。 そして。 人の目の前で。 少しも躊躇せずに手を取り合い抱擁を交わし、見つめ合うではないか。 「…………っ!!!!」 思わずクルリと背をむける。 何故か体中が熱くなって胸がムカムカする。 自分ではないのに、自分自身が勝手にそうしているような、なんとも奇妙な感覚がする。 しかも、絶対にあり得ないようなとんでもなく恥ずかしい行為を…!!! 怒りか何か分からない混乱の中で、知らずに震えていたオレを、アイツが目の端に入れる。 「……ああ、またオマエか、……っていうかオレか」 「ああ!?テメェふざけんなよ…!!人ん家で勝手なこと…」 さすがに今度こそブチ切れそうになった。 「さ、サスケくん…、って二人ともか!えーっと…」 大人であるサクラも、二人同時に同じ人間を相手に、少々混乱しているようである。 それを遮るように、大人の、上忍の格好をしたアイツが口を開く。 「勝手なことって…」 サクラの腰に腕をまわして、身体を密着させて抱き寄せる。 「…こういうことか?」 片手を彼女の頬と顎に添えて、勝ち誇ったような笑みを向けた。 呆気にとられて身動きすら取れないオレは、あまりの展開に大きく目を見開く。 「さ…サスケくん…っ」 赤面した彼女が自分の名を呼ぶのにも、変な気持ちになる。 堪らず顔を逸らし、目を瞑る。 ……これはきっと、幻術か何かだ…! かぶりを振って、必死に冷静になろうとした。 再び目を開くと、アイツは。 いつの間にかすぐ目の前に居て。 少しだけ憂いを含んだ眼差しを向けていた。 そして大きな手を、オレの額当てに近づける。 「………生きろよ、何があっても」 額当てが、小突かれた。 昔の記憶が、一瞬だけ脳をかすめる。 そしてその赤い瞳には、確かに見覚えがあった。 そうだ、兄さん……。 「お前は、………愛されているから」 つづく ******* 2012.9.27 りあ様より頂いたリクエストそのAです。 [*前へ][次へ#] [戻る] |