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君に恋した(学パロ回想 リクエスト)

12万打を踏んで下さった、Kいさんのリクエスト文です。

学パロ設定です。
どうもありがとうございました!


********




「きゃあ!懐かしい〜!」

「本当だ、サクラちゃん可愛い」





カラン、カラン。

アイスコーヒーの中の氷が揺れて音を立てる。



階段を上がり自室の前へ立った途端、友人たちの弾んだ声が耳に入ってきた。

サクラは眉をひそめて片手でドアを開ける。

そこには、本棚から引き出したアルバムをめくる、いのとヒナタの姿があった。




「ちょっとぉ、勝手に見ないでよ!恥ずかしい…」




床に置いた小さなテーブルにトレーを預けると、サクラは不機嫌な声を上げて2人の間に入った。

覗き込んだ写真の中では、あどけない少女が微笑んでいる。




「何言ってんのよー。ここに写ってるのなんてほとんど私と一緒じゃない。家にあるやつと一緒でしょー」

「あ…、私も居る。やだぁ」




全くいのの言う通りだった。

幼き日の自分の姿を見つけたヒナタは、若干赤面している。

サクラは口をとがらせるだけで、それ以上の言葉は紡ぐことは出来なくなる。




こうなったら幼き日の友人鑑賞を、ともに繰り広げてやろうではないか。




「いいわよ、それなら。あんたたちの変顔だって見つけてやるんだからっ」




そう言って、本棚から別の一冊を抜き取る。

手に取ったそれを開けば、両側から2人も覗き込んだ。

小学校6年の時の、修学旅行のアルバムだった。




「あー!それって、サクラが班長のくせに迷子になった時のでしょ!」




――――しまった。

そういえば、とサクラは顔が熱くなる。

ぱらぱらとめくりながら、徐々に記憶の糸を手繰り寄せる。




これは最高学年になったばかりの4月で、班別行動で遊園地に行って。

いのと同じ班で、トイレから戻ったらみんなが居なくて。




「反対側で待ってたのに、私たちを見つけられないまま、どっか走っていっちゃったのよねー。サクラったら」

「…うっさいわね」




思い出したわー、と笑ういのにつられてサクラも笑う。

とんでもない失態をしてしまったのだ。





――――でもそのおかげで、あのひとときに出会えた。





「あ。ありがとう、サクラちゃん」

「コーヒー、いただきまーす」


「…どーぞ、飲めば」







***








「……どうしよう」





声に出してしまえば、胸の重みは更に増す。

次第に不安が膨れてゆき、張り裂けそうなそれは涙となってサクラの目から零れ始めた。





―――みんな、どこ…!?





どうして、たった数分前まで一緒にいたのに。

がむしゃらに走ったせいで息は上がり、景色は全く覚えのないものへと変わっていた。

そうでなくても遊園地なんて、何処もかしこも似たような色彩が溢れている。

見慣れぬ土地の、限りなく広い施設であるのに、よりにもよって。




園内に流れる陽気な音楽が、今は恨めしい。

周りは全て他人である。





このままみんなに逢えなくなったらどうしよう…。

帰れなくなったら…?



私、班長なのに。

手の甲で涙を拭くと、その冷たさが余計にみじめだった。




落ち着いて。

大丈夫。



深呼吸をして自分に言い聞かせる。

迷子だなんて恥ずかしい単語に、当て嵌まりたくはなかった。

自分はそういう人間では無いと思っていたから。

妙なプライドが邪魔していると気付くには、サクラは少し幼な過ぎた。




「そうよ、迷子なんてナルトだってなってないのに…」




先程から園内放送が何度かアナウンスされているが、ナルトの名も自分の名も呼ばれていない。

ホッとする反面、早くみんなの元へ戻らなければという焦燥感に急かされる。



早く班員たちと合流して、先生にもクラスの皆にも、何事も無かったようにふるまえばいい。

親の耳にも届かないだろう、知られたらきっと煩いに決まっている。




サクラは周りを見渡した。




平日だというのに、随分とにぎわったテーマパークである。

家族連れの他に恋人、若い女性のグループ、そして中高生の制服を着た団体も見られた。

サクラと同じように、学生の修学旅行なのだろう。

いっそ制服ならよかったのに。



私服で、しかも思いっきりおしゃれをしてきたつもりが、かえって馬鹿馬鹿しいとさえ感じられた。

これでは何処に同じ木の葉小の生徒が居るのか、全く分からない。

揃いの名札を胸につけてはいるが、各々がカラフルな衣服でいるため、よほど目を凝らさなければわからない。




サクラは途方に暮れた。

とりあえず、ちょっと座ろう。




綺麗に形とられた小道の縁に腰かけて、旅行のしおりを取り出す。

迷子になった時のマニュアルがあったことを、今更ながらに思い出した。

そこにはやはり当然のように、施設の係員に伝えましょうと書いてあるのみである。

とんだ恥さらしだ、だがやらねばなるまい。

意を決して、涙を手で乱暴に拭うとしおりを閉じた。






サクラは顔を上げて歩き出すと、すぐそこのベンチに座る少年が目に入った。

少しはねた黒髪の少年。



その特徴に、まさかと思う。

同じ校章の名札が目に入り、それは確信に変わる。





それが、別のクラスのあの彼だったからだ。





「さ…、『サスケくん』?」




近付いておずおずと声をかけると、黒髪の少年は名を呼ばれた事には興味無さそうに顔を上げた。

サクラの校章を一瞥し、目を合わせる。




「…何だよ、おまえ」




冷たい声色に、壁を感じ取った。

無理もない、低学年の時に同じクラスだったとは言え、サクラのことなど覚えていないだろう。

そうでなくても、彼の周りは常に女子が囲んでいるのだ。





「えっと、さっきまで皆と一緒だったんだけど、わかんなくなっちゃって」

「何だ、はぐれたのかよ」




溜息を吐くように言われて、サクラはみじめになった。

鈍くさい子だと思われた事だろう。

そこでふと気が付く、何故彼はひとりなのだろう。




「さ、サスケくんは?」




サクラの問いに、面倒くさそうに視線を上げた。




「……一時間後に落ち合う約束して、自由行動」

「え、それっていけないんじゃないの」




基本、班での行動が決められているのだ。

規律違反など、サクラには考えられなかった。




「場所さえ決めておけば問題ないだろ。最悪バスの前で待ってればいいんだし」




それもそうだ、妙に納得してしまう。

だが、それではせっかくの遊園地、しかも友達との愉しい時間が全く無いではないか。




「え、でも、みんなと…」

「別に、どうでもいいし」




サクラが言い終わらぬうちに、あっさりと切り捨てるように遮る。

冷めてるんだ、と思った。

でもそんなところも同じ年とは思えず大人びて、噂通りでカッコイイとさえ思う。



彼は人を寄せ付けない。

女子は黄色い声で取り囲むけど、全く相手にしていない(そんな所が余計にクールでかっこいいのだが)

男子はと言うと。

あまり話している所は見かけない。


勉強も運動も全て完璧で、みな一目置く存在ゆえに。




仲がいい友達とか、いないのかな…。




いくら皆に尊敬されても、いくら異性から人気があっても、それは寂しい事かも知れない。




「ねえ、一緒に乗ろう?」




気が付いたら腕を引っ張っていた。

目の前の絶叫マシンを指さすと、丁度乗客の発する歓声が聴こえた。





「……はぁ?」




信じられない、とでも言うように怪訝そうにこちらを見上げるが、サクラの視界はあっちのほうへと向けられていた。




「勿体ないよ、せっかく来たのに」

「…余計な事すんな」


「もう乗っちゃった?」

「そうじゃねえよ。いいっつってんだろうが」




尚も不機嫌そうに拒むサスケに対し、きょとんとしたように首を傾げる。




「もしかして、苦手?…じゃあ違うのに…」




最後まで言い終わらぬうちに、彼は立ち上がって引っ張られていた手を振り払う。




「…ったく、ウザい奴だな。一回乗りゃいいんだろ」

「えっ…、あっ…!待って…」



言うなりずんずんと歩き出す彼に一瞬怯むも、すぐに小走りに追いかけた。















「ごめん。サスケくんって、絶叫系好きじゃなかった?」




買ってきた冷たいジュースを手渡すと、俯いて座り込んでいたサスケはのろのろと手を伸ばした。




「……別に、好きでも嫌いでもねぇよ」

「でも、叫ぶの我慢してたよね…。気分悪そう…」





うっせーな、と反応するも、それは冷たさも苛ついている様子も感じられない。

紙コップから一口飲む喉元を、何となく見つめる。



「慣れてねぇだけだ…」



口元をぐいっと拭う仕草が、子供っぽいと感じられた。

横顔が綺麗だと思った。

伏し目がちな目元では、濃くて長い睫毛が縁取る。




何故か、目が離せない。




皆が騒ぐわけだ。

こんなにキレイな男の子、見た事がない。

そして、こんなに寂しそうな子も。




「……んだよ」

「…あ。べ、別に」




軽く睨まれて、慌てて目を逸らす。




「…どうでもいいけど、お前の方はフラフラしてていいのかよ」




サクラは、あっと声を上げた。

全身が青ざめて立ち上がる。

みんな探しているかも知れない。





「仕方のねぇ迷子だな」




ん、と差し出された紙コップを受け取ると、反対の手を引かれた。

そのまま歩き出す。

コップの中身はまだ残っており、それがちゃぷん、と揺れた。





「ど、どこ行くの」

「インフォメーションセンターに決まってんだろ」


「い、いいよっ」




思わず叫んだ。

歩みを止めたサスケが、少し驚いたように振り返る。



「……独りで行けんなら、別にいいけど」

「そう…じゃ、なくて」




サクラは俯く。




出来れば。

できればこのまま、サスケと一緒に居たい。

ただ座っているだけでいい。

もっと、彼の事を知りたい。



班のみんなは何て言うだろうか。

何ならバスの前まで彼と一緒に行って、皆を待っていればいい。





「ああ、ジュース代なら…」

「ち、違うよ!そんなの、いい…っ。そうじゃなくて」




彼の黒い目が真っ直ぐにサクラを見る。

顔も、全身も熱くなる。

どうしてこんなに。




「…サスケ、くん」




どうしてこんなに、胸は温かいのに。

どうしてこんなに、泣きたいのだろう。





どうにかしなければならないのに、どうにも言葉が出てこない。

何を云えばいいのだろう。

この気持ちは、どうしたら伝わる?




「……ありがとう」




自分でも何故、そういったのか判らなかった。

でも、この時のサクラにはこの言葉しか紡ぐことは出来なかった。





腑に落ちないといった表情のサスケの向こう側に、焦ったように走るいのを見つけた。

途端に現実に引き戻されたように、サクラは安堵する。

これあげる、と紙コップのジュースを差し出した。





「もう、大丈夫。またねっ」




班員を見つけた笑顔を浮かべて、サスケに手を振りながらその脇をすり抜けて駆け出した。





いつ、恋に落ちたのだろうと聞かれたら。

多分、あの時と答えるかも知れない。







***










「サクラー、ケータイ鳴ってるよぉ?」






いのの指摘で、サクラはアルバムから顔を上げる。

テーブルの上のそれが着信を知らせるランプを点滅させていた。





「ん、取ってー、いの」

「あら、カレシよ。出てもいい?」



途端にガバッと身を起こす。

画面を覗いたいのが、にやりとして携帯を手に取った。




「ちょ…っ!勝手に出るな!」

「もしもしー?サスケくんー?」




傍ではヒナタが、はらはらしながら見守っていた。




「サクラは、えっとねー。今シャワー中だったりして」

「んなわけあるか!」




耳元に当てたそれを取り上げようとすると、身を翻して巧みに避ける。




「ちょっと!いの!」

「そうそう、サスケくんに朗報よ!今日はサクラのご両親は夜勤でいませ〜ん」

「いのちゃん…」




ヒナタは何か想像して、顔を赤らめる。





「どうぞ、上がっちゃっていいわよ。え?…私たち、もちろん帰る帰る」

「こ…の…、いい加減にしろー!!」

「すごい叫んじゃってるわよー。ちょっ、重い!!まったく、サスケくんも大変ねぇ」




上からのしかかるようにして動きを止め、いのの手から携帯を奪い返す。

重い、どきなさいよ、と連呼する彼女に、誰がだ!と一喝してからそれを耳に当てた。





「…えーっと、もしもし?サスケくん?」





たった今の騒動の後では無駄な事だと判っていたが、なるべく可愛らしい声を出した。






*********
2013.4.25




サクラたちが何歳かは、まだ秘密です。

12万打を踏んで下さったKいさんに捧げます。


「学パロで、小学生くらいの少し過去の話」

という素敵なリクエストを、どうもありがとうございました!


余計なオプションもつけてしまいましたが…、まあいずれはこうなるはずですしね…!














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