[携帯モード] [URL送信]

キャンディ#2
▼ふんわり
萌ちゃんは、屯所の中をぐるぐる回って副長を探した。
萌ちゃんの事だから、てんで見当違いな所を探すかと思っていたけど、案外あっさりと見つけた。

そこは、屯所内の中庭の池。

そう。
蚊みたいな天人騒動の時に副長と万事屋の旦那がゴチャゴチャやってた、あの池。


その池に佇む副長の後ろ姿は、何だか寂しそうだった。
すぐには、声をかけたりできない感じ。

だけど、萌ちゃんは黙って副長の隣に座った。

萌ちゃんのこういうところは、凄いと思う。
空気が読めないっていうか。
でも、その空気の読めなさが逆にいいっていうか。



「萌・・・」

「あのね、」

「ん?」

「土方さん、」

「どした?」



甘いなー。
「ん?」と「どした?」が、いつもより声のトーンがずっと高い。
ホント、萌ちゃんには甘いなー。
俺に、あんな優しい顔、見せてくれたことないくせに・・・って、俺にあんな顔されても気持ち悪いけど。



「あの、お父さんなんて言ってごめんなさい!」



萌ちゃんは、勢いよく頭を下げた。
副長は、びっくりした顔をしていた。



「おい、萌」

「・・・ごめんなさい」

「顔、上げろって」



副長は、萌ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
萌ちゃんは、顔を上げてもう一度「ごめんなさい」と小さな声で言った。

そんな萌ちゃんに、副長は咥えていた煙草を携帯灰皿に仕舞って微笑った。



「萌、似合ってる」

「え?」

「着物・・・可愛いよ」



萌ちゃんの顔が、どんどん真っ赤になった。
まるで、茹でダコみたいだ。


いーなー。
こんなことが、サラっと言える男前は。



「確かに、煩ェ親父みてェだよな」

「そんなこと・・・あるけ、ど」



否定はしないんだ?
普通は、否定するとこだろ。
んで「いや、いーんだ。気にすんな」みたいな会話だろ。



「兄貴だろうが親父だろうが、関係ねェよな」

「何、が?」

「約束、」



"この先、お前を傷つけたり、泣かす奴は許さねェ。この俺が、叩き斬ってやる"



「・・・約束」

「約束、だ。俺がお前を護る」


あ。
萌ちゃんが、ぽーっとなっちゃってる。
すんげー見つめちゃってる。

なんか、イー感じじゃね?
もう、くっついちゃえばよくね?

あれ?
今、万事屋の旦那が憑依したような・・・


潤んだ瞳で見つめるって、今の萌ちゃんみたいな状態の事を言うんだ。
多分。



「萌・・・」



何か、さ。
副長も、このふんわりムードに流されてないか?



「ックチョン!」

「ッッ!!!」



何で、ここでクシャミなんてするかなァ?

ほら。
副長も、目が覚めちゃったじゃん。



「あー、萌、アレだ」



必要以上にデカい声の副長。
流されそうになった自分に、驚いているといったところか。



「そーいや、作戦会議って何だよ?」

「・・・言いたくない」



そうだよね。
たった今、見つめ合っちゃったんだもんね。
そりゃァ、言いたくないよね。



「でも、山崎さんと悪い相談してる訳じゃないよ?」

「ンなこたァ分かってるよ。山崎がそんな事するわけねェだろ」



副長〜〜〜〜。



「山崎に、そんな度胸があるわけねェだろ」



ちょっと、副長?



「土方さ、ん」

「ん?」

「あのね、」

「ん、」

「あの、」



萌ちゃんが「あの」と言って何秒くらい経ったか。
30秒くらいかな。
副長は、萌ちゃんの頭をポンポンと撫でた。



「行こうぜ、送ってやるよ」

「・・・うん」



萌ちゃんは、何を言おうとしたんだろう。

好きな人がいるって、ことかな。
それとも、沖田隊長の言っていたことが正しいのかな。


萌ちゃんは、副長の少し後を歩いて屯所を出た。

[*前へ][次へ#]

9/22ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!