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キャンディ#2
▼気付いた気持ち

萌ちゃんを送って屯所に戻り、自分の部屋ではなく副長の部屋に直行した。

言わなくちゃ。

もしかしたら、関係ないと突き放されてしまうかも知れないけれど萌ちゃんを惑わすのは良くない。

それだけは、言わなくちゃ。



「副長!」



俺は、ノックもせずに勢いよく襖を開けた。
案の定、副長は「ノックくらいしろ」と俺を睨み付けた。

こ、怖くない。
怖くなんか、ない。



「ノックも忘れる程の緊急事態です」

「萌が何か言ってたのか?」



え?



「お前に用があったんだが、他の隊士が萌と屯所を出るところを見たってな」

「そう、ですか」

「萌を送ってくれたんだろ?」



副長は「世話かけるな、」と、目を細めた。
俺にそんな優しい顔をしないでくれ。
言わなくちゃいけない事が、言えなくなる。



「で?萌は何て?」



副長は、煙草に火を点けながら言った。



「あ・・・副長が分からないって」

「だろうな、」

「あの、どういう、つもりで・・・」



何をどう言っていいのか分からなくて、歯切れの悪い言い方だった。



「別に、どんなつもりもねェよ」

「本当に、萌ちゃんを妹だと言うなら惑わすのはやめてください。でも、もし」

「今更、気付いたって遅ェだろ!」



俺の言葉を遮った副長の言葉に、一瞬息が止まった。



「え?」



副長は、慌てて手で口を覆っていた。



「副長・・・」

「萌が好きなのはQ太郎だ。俺じゃない」



副長は、ふぅっと煙と一緒に切ない言葉を吐き出した。
その煙は、ゆらゆらと天井に上って間もなく消えた。
 
 

「副長・・・今なら、まだ・・・」

「そんな都合よくいくかよ?」
 

 
確かに。
 
今まで、付き放しておいて今さら。
本当に、今さらだよ、副長。
 
 

「本当は、もっと早くに気付いていたんじゃないんですか?」

「さァな。けど・・・嫌な気はしてなかったんだ」
 
 

毎日毎日、お弁当を作って屯所を訪れて一日中、副長の後を付いて歩いていた頃。
断ることは、いくらでも出来たんだ。
でも、副長は嫌だとは言わなかった。
 
寧ろ、可愛がっていたようにさえ見えた。
 
 

「俺しか映ってねェ萌のデッカイ目ん玉に、身動きが取れなくなるんだよ、何だろうな」

「・・・」

「いつも、俺を見上げて土方さん、土方さんって長ェ睫毛パチクリさせてよ」

「・・・」

「犬っコロみてェに俺のあと付いて回ってよ」

「・・・」

「外で会っても、土方さーんってでっけェ声でよ」

「・・・」

「終いにゃ、媚薬騒動まで起こしちまいやがって」

「・・・」

「そんなに、俺の事、想ってたんだよな」
 
 

この人、よく恥ずかしくもなくこんなこと淡々と話せるな。
聞いてるコッチが、恥ずかしいんですけど!
 
 

pppp・・・
 
 

「あ、萌ちゃんから電話が・・・」

「出ろよ」
  
「もしもし?うん、屯所だよ・・・うん・・・うん・・・あ、そう・・・うん・・・わかった・・・じゃー、明日ね」
 
 

携帯電話をパチンと閉じて、溜め息を吐いた。
本当に、タイミングが悪い。
神様の悪ふざけ、だな。
 
 

「萌ちゃんが・・・」

「なんだよ?」

「Q太郎にデートに誘われた・・・って」
 
 

俺と別れて、偶然Q太郎と会ったらしい。
さすが、壱零Q(イチマルキュー)のイケメン店員、抜け目ないな。
 
 

「そうか、」

「あ・・・」

「これで、完全に兄貴に徹することができる。萌の恋を応援する」



そう言った副長は、悲しい顔をしていた。

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