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キャンディ#2
▼その恋は
「はァァァァ?!」



副長の声は、屯所中に響き渡った。



「あの、ちょっと、萌ちゃん?いきなり何を言ってるのかな?」

「だーかーらァ、土方さんは今までどんな恋をしてきたのかなって」



萌ちゃんは、副長の後ろをパタパタと付いて歩く。
まるで、仔犬みたい。

萌ちゃんが、副長に恋心を抱いていた頃と同じ風景だ。
だけど、今萌ちゃんが恋をしているのは副長ではない。

そんな二人の姿が何だか、切なく映った。



「萌ちゃん、」

「あ、山崎さん」

「まァた、テメェが萌に」

「萌ちゃん、違うでしょ?副長の恋がどうだったかなんてどうでもいいでしょ」

「あー、そっか」

「何となくカチンと来るんですけどー」



「あのね、」と言って、萌ちゃんは副長を見上げる。
副長のドキっという音が聞こえた気がした。



「私、土方さんしか好きになったことがないの」

「お、おゥ」



多分、今の副長に効果音を付けるとするなら『ドギマギ』って感じかな。
いきなり、あなたのことしか好きになったことがないと言われたら、そりゃあドギマギするだろう。



「私、これからどうすればいいの?」

「どう、って・・・?」



萌ちゃんは、大きな瞳で副長を見上げた。
萌ちゃんの瞳には、副長しか映っていない。



「あー・・・萌、ここじゃ、な?俺の部屋に来い。こんなとこで話すことじゃないからな」

「はい、」

「先に行ってろ?俺の部屋わかるだろ?俺、あの、茶ァ持って来るから、な?」

「はい、」



副長は、萌ちゃんの後ろ姿を見送ると俺の元へ戻ってきた。



「山崎!!」

「・・・」

「萌は、萌は、俺から何を聞き出そうとしてやがんだ?」

「そんな言い方しないでくださいよ。萌ちゃんは真剣なんだから」

「だから、」

「妹の相談事ですよ、聞いてあげてくださいね」



副長は、食堂でお茶と茶菓子をトレイに乗せて自室へ向かった。
自室の襖を開ける前に、深呼吸をする副長は少し可愛く見えた。







「で、どうしたって?」

「うん・・・上手に説明できないんだけど」

「ん?」



出た!
副長の萌ちゃん専用「ん?」。



「私は土方さんのことしか好きになったことが無いけど、土方さんは今までに恋をたくさんしてきたでしょ?」

「たくさん・・・って、程じゃねェけど」



萌ちゃんに、若干押され気味の副長は煙草を取り出した。



「土方さんは、恋をしたらどうなったの?」

「どう・・・って」



副長は、煙草を置いて少しだけ目を閉じて、想い出に胸を馳せた。



「萌。恋をするとな、心が豊かになるんだ」

「豊か、に?」

「あァ。隣に居るだけで嬉しくて、幸せで、胸が暖かくなるんだ」



「胸が、」と、萌ちゃんは自分の胸に手を当てた。



「そして・・・」



副長は、萌ちゃんの手を取って自分の胸に寄せた。



「その手に触れたくなって、」



副長は、反対の手で萌ちゃんの髪を撫でて、それから頬に触れた。



「土方、さん?」



萌ちゃんの肩が、ピクンと跳ねた。



「そして、全てが愛しくなるんだ」

「全て?」

「全て、だ」



副長は、射抜くように萌ちゃんを見つめていた。
自分が映る萌ちゃんの瞳をどんな気持ちで見つめているんだろう。



「萌・・・」



副長は、指先で萌ちゃんの唇をゆっくりとなぞった。



「キス、してやろうか」

「えっ?」



副長の顔が近づいて、萌ちゃんはギュッと目を閉じた。
窓から吹き込む柔らかい風が二人を包んで、萌ちゃんの髪を揺らした。



「!!」



今のは、唇?
それとも、萌ちゃんの髪?



「なんてな。ジョーダンだよ、萌」

「土方さん・・・」

「恋をするっつーのは、そういう事だ」



副長は、背中を向けて煙草に火を点けた。



「土方さん、」



萌ちゃんは、副長の背中にすがるように呼んだけど「もう、帰れ」と言われた。



「萌、お前は大事な妹だよ」



部屋から出てきた萌ちゃんの瞳は、涙で揺れていた。

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