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キャンディ#2
▼単純
副長が、萌ちゃんに拘るのは単にフッた相手だからだと思っていた。


媚薬キャンディ事件当時、毎日のように真選組を訪れていた萌ちゃん。

毎日過ぎて、みんな感覚が麻痺して萌ちゃんが屯所に居ても自然と馴染んでいた。


それが、媚薬キャンディ事件をきっかけに萌ちゃんは副長にフラれてしまった。


副長には、その負い目もあってか萌ちゃんを「妹として」気に掛けている節はあった。


アマい男だと思った。


フッた女のことなんて、放っておけばいいのに。


だけど、そうじゃないんだ。

そんな単純なことでは、ないんだ。


出来るなら、副長も萌ちゃんを隣に置いておきたい(はず)んだ。
出来るなら、普通の恋人同士のように手と手を繋いでデートしたい(はず)んだ。


けど。

俺たちは、真選組。
まして、副長。

明日の命の保証はない。


俺たちが、誰かを愛すると。
きっと、悲しませる。

副長が、萌ちゃんを愛したら?

やっぱり、萌ちゃんを悲しませるのかな。
やっぱり、萌ちゃんは泣くのかな。



「山崎、」

「わー、ふ、副長、」



誰かのことを考えていて、その誰かに急に呼ばれると、すごーーーーくビックリするよね。
今、そんな感じ。



「なんだよ、」

「い、いや、なんでも」

「お前、よォ」



副長は、胸ポケットから煙草を取り出して火は点けずに話を続けた。



「Q太郎に会ったことはあんのかよ?」

「は?あー、会ったって言っても遠目から見ただけですよ」

「そうか。どうだった?」

「は?どう・・・って」



煙草に火を点けて、俺に向けて煙を噴き出す副長。



「だァから、どんな奴だったかって、」



気になるんだー☆

カッコつけてないで、言えばいいのに。
萌ちゃんと壱零Q(イチマルキュウ)に行ってくればいいじゃん。



「どうって・・・普通にショップ店員ですよ。お洒落な」

「お洒落、な」



このお洒落なっていうのが、Q太郎のポイントだと思う。
そして、わざと言ってやったこともなくもなくもない。


真選組にお洒落は縁のないものだからね。
副長が、お洒落かっていったら、ちっともお洒落じゃない。

どんな反応をするか少しだけからかっただけ。

案の定、副長は「お洒落、」と言って首を傾げている。


俺って、ワルイ奴だなー。



「お洒落っつーのはアレか?髪の毛が茶色くて毛先がピョンピョンしてるよーな」



知識はあるんだな。
さすが、副長。



「ご名答です。最も、今は黒髪ですけど」

「茶色じゃねェのかよ!」

「以前は茶髪でしたけど、変えたみたいです。萌ちゃんが言ってました。新発見☆って」

「・・・そうか、」



副長は、ゆっくりと煙を吐いた。



「黒髪なら、副長と同じだねって言ったんです」



あの時の萌ちゃんの表情は、よく覚えている。
紛れもなく"恋する萌ちゃん"が居て。



"でも、土方さんは土方さんだよ?"



「萌ちゃんは、土方さんは土方さんだって言ってました」



イマイチ、よく解らなかったんだけど。
萌ちゃんは、キラキラしていたんだ。



「何だ、そりゃ?」

「・・・さァ?」

「萌は何、考えてんだかなー」



確かに。
萌ちゃんの思考回路は、複雑だ。
いや、複雑なんじゃなくて単純なのか?
単純に、そして純粋に。
ただ、誰かを好きになっただけなんだよね。



「萌ちゃんは、単純だけど純粋ですよ」

「そうだな、」



副長は、煙草を携帯灰皿にしまって空を仰ぎ見た。



「俺も単純になれればよかったのかも、な」

「え?何ですか?」

「違うな、単純すぎたのか・・・」

「え?」

「今さら、か」



副長は、空にかざした手を太陽を掴むように握った。



意味深すぎる。



"俺の出る幕は、もうねェな"


"俺も単純になれればよかったのかも、な"



萌ちゃん、もしかしたらキミは間違えてしまったのかもしれないよ?

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