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キャンディ#2
▼二人の距離
萌ちゃんは、副長の少し後ろを歩く。


いつも。


不自然な距離ではないけれど、端から見れば何となくぎこちない距離。

二人の間に特に会話は、ない。

副長の背中を見つめながら歩く萌ちゃん。



キミは、副長の大きな背中に何を話しかけているの?


副長は、背中で萌ちゃんとの距離を図っている。

いつもより、歩幅を小さめにして少しゆっくり歩く副長。
だから、萌ちゃんが置いてきぼりにされることは決してない。


それが、二人の距離。



「萌、」



副長が、歩みを止めて後ろを振り返った。

萌ちゃんは、「何ですか」と言って首をかしげた。



「手・・・」

「え?」

「手ェ、繋いでやろうか?」



萌ちゃんは、耳まで真っ赤にして「な、な、な、何ですか!イヤイヤイヤイヤ」なんてシドロモドロになった。



「俺の手が、好きなんだろ?」



そう言うと、副長は萌ちゃんの手を掴んで歩き出した。



「あっ、」

「行くぞ」

「・・・はい」



副長が、強引に手を引くと萌ちゃんは素直に手を繋がれていた。



二人の間に、会話はない。

時々、萌ちゃんは何か言いたそうにチラリと副長を見上げた。

萌ちゃんに、気付いていないのか。
気づかないフリ、なのか。
副長は、真っ直ぐ前を見ていた。

萌ちゃんは、溜め息を押し殺して視線を戻した。



「萌、」



沈黙を破ったのは、副長だった。

何だ。
気付いてたんじゃないか。



「好きな奴がいるん、だろ?」

「え?あ、うん・・・」

「上手くいくといいな」



副長は、いつもよりもずっと、ずっと優しい声で言った。



「・・・あのね、土方さん」

「ん?」



萌ちゃんは、大きく息を吸って副長を呼ぶと副長は、萌ちゃんの方を見た。



「あのね、私・・・私、」



萌ちゃんは、また何かを言いかけて言わない。



「あのな、萌」



副長が、歩くのを止めて萌ちゃんに向き直った。



「俺は、」



副長が、繋いだ手に力を込めると、萌ちゃんの肩が微かにピクリと上がった。



「俺は、萌が幸せなら何だっていい。萌が誰を好きだろうと、誰と付き合おうと萌が幸せなら、」

「土方さん?」

「けど・・・この手は、お前が望むならいつでも繋いでやる。お前が望むならいつでも抱きしめてやる」



副長の思いもよらない告白に、萌ちゃんは口をパクパクするだけだった。

まるで、池の鯉みたい。



「いつでも、側にいて見守っててやる」

「土方さん・・・」



・・・何か、愛の告白チックになってないか。

こんな展開、おかしいだろ。



「・・・俺は、」



まだ、続くのかよ。



「お前を幸せに出来ねェ、けど」


あ。

萌ちゃんの目が一瞬にして曇るのが分かった。



「そんなの、知ってるよ」



そして、涙でユラユラ光った。



「萌、」

「分かってる、よぅ」

「泣くなよ、萌」



副長は、萌ちゃんの頭を撫でた。

副長の片手は、萌ちゃんと手を繋いでいて、もう片方は頭を撫でている。

萌ちゃんは、既に副長を独り占めしているじゃないか。



この二人の関係は、何て言うんだろう。
何て、名前を付けたらいいんだろう。

本当に、このラブストーリーは一体どこに向かうんだろう。

ハッピーエンドが存在するのかも分からない。



「土方さん、あのね、」

「萌、」



副長が、優しく呼ぶと萌ちゃんは黙ってしまった。

「行こうぜ」と、二人は帰路を歩き始めた。


夕焼けに映る二人の影は、繋がって見えた。

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あきゅろす。
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