キャンディ#2
▼ビミョーな関係
俺は、萌ちゃんの横顔を見ていた。
そこには、紛れもなく"恋する萌ちゃん"が居た。
長い睫毛を揺らして話す萌ちゃん。
「萌ちゃん、」
話しをぶった切るように「萌ちゃん」と言った。
「萌ちゃん、彼と手を繋いで街を歩きたい?」
「え?なァに?」
「彼とデートをしたい?彼に抱きしめて欲しい?彼と、」
「山崎、さん?」
矢継ぎ早に聞く俺を、小首を傾げて見る萌ちゃん。
「・・・ごめん、何でもないよ」
萌ちゃんだって年頃の女の子だ。
聞くまでもないか。
「デート、とかじゃなくて」
萌ちゃんは、ポツリと話した。
「早く名前を知りたいな・・・って」
そっか。
まだ、名前も知らないんだった。
忘れていたけど、Q太郎はあくまでも仮名だ。
仮名っつーか、沖田隊長が勝手に付けただけだ。
「そっか」
萌ちゃんは、恋する瞳で空を見上げた。
▽
「萌、」
「土方さん☆」
「待たせちまって悪ィな」
副長は、萌ちゃんの隣に座った。
萌ちゃんを挟んで三人で庭に向かって縁側に座っている光景。
ヘンなの。
「で?何しに来たんだよ?」
そう言って副長は、煙草に火を点けた。
「あのね、」
「うん?」
出た!
聞いたこともない優しいトーンの「うん?」。
「あの、ね」
「ん、」
「あの、」
「なァんだよ」
副長は、萌ちゃんを肘でツンと押した。
弾みで萌ちゃんが、俺に寄り掛かる形になった。
「勿体ぶるなよ」
副長は、笑みを含んで言った。
何か、さ。
もう、お似合いじゃね?
もう、付き合っちゃえばよくね?
ナイスカポーじゃね?
あれ。
今、万事屋の旦那が憑依したような・・・
って、このセリフ何回目だよ!!!
「山崎さん、代わりに言って」
「え?何で俺?」
「何だよ?!」
萌ちゃん、気づいて。
ほら、副長がちょっとイラつき始めたよ。
つーか、ほんと短気だな。
「萌、早く言えよ。俺ァ暇じゃねェんだよ」
「・・・ごめんなさい、」
萌ちゃんに、大きな影が落ちた。
「悪い。怒ったわけじゃねェんだから、そんな顔すんな」
副長は、バツの悪そうな顔で、萌ちゃんの頭を撫でた。
「あのね、」
「おゥ、」
「土方さんが、好きなの」
えッッ!!!
副長の手は、萌ちゃんの頭に乗ったまま固まっていた。
固まったのは、副長だけじゃない。
確かに、空気が固まったんだ。
「萌、ちゃん?」
「あッ!間違えた!!違う違う!!」
「萌、」
「土方さんの手が好きって言おうとしたの」
「俺の手?」
「うん」
あー、びっくりした。
これは、天然の域を越えてる。
もしかして、わざと?
いやー、萌ちゃんに限ってそれはない。
そんなに、頭の回るような子じゃない。
萌ちゃんは、昨日俺と話したようなことを副長に話した。
いつものように、睫毛を揺らして恋する瞳で。
「そうか、」
「うん☆」
「俺は、」
「萌、」と言って副長は、黙ってしまった。
副長が、何を言おうとしているのかは分からないけど、きっと萌ちゃんを傷付けないように言葉を選んでいるんだ。
「萌、俺は・・・」
「土方、さん?」
「いや、何でもねェ。気にすんな」
気に、なるよね?
今の副長、すっごーく意味深だったもんね。
気にするなっていう方が、無理だよね。
「萌、送ってやる」
副長は、今の言葉を取り消すような笑顔で言った。
「あ、」
萌ちゃんは、助けを求めるように俺を見た。
でも、残念だけど助けてあげれないよ。
副長の気持ちの中の問題だからね。
「またね、萌ちゃん」
萌ちゃんは、まだ話が終わってないという顔をしていた。
「行くぞ、萌」
「あ、待って。山崎さん、また」
「うん。気を付けてね」
俺は、二人の後ろ姿を見送った。
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