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キャンディ#2
▼バカで素直で可愛くて
「ひーじかーた、さーん」



本来、聞こえるべきではない萌ちゃんの声が、屯所に響き渡る。

副長の元へ辿り着く間、すれ違う隊士たちに萌ちゃんはペコリと頭を下げた。



「こんにちはー」

「こんにちは、萌ちゃん」



女心と秋の空は、何とやら。
昨日は、あんなに泣いてたのに。

クリクリの大きな瞳に涙を溜めて、長い睫毛の先を光らせた萌ちゃんは、とても可愛かった。

副長にも見せてあげたいと思った。
あんな儚げな萌ちゃんを見たら、副長は抱きしめずにはいられないと思う。

きっと。

そして「もう泣くな、萌」って、カッコつけて言うんだ。



「萌ちゃん、」

「山崎さん」

「昨日は、泣かしちゃったみたいでゴメンね」

「いいえ。土方さんのお話が聞けてヨカッタ」

「あー、そう」

「土方さんは、お部屋かなァ」

「うん、多分」



萌ちゃんは、昨日の涙が嘘のようにキラキラしている。
いつもの、"恋する萌ちゃん"。

「副長に会いに来たの?」

「うん。土方さんが私の事を本当に心配してくれてるんだなって思ったら、嬉しくなっちゃって」

「あー、そう」



「あー、そう」しか返事が出来ない。
何だろう。
何て言えばいいのかな。

素直とバカって、紙一重なんだな。



「萌、」

「土方さん☆」



表情がパァっと明るくなるっていうのは、こういう事だ。



「副長、」

「声、屯所中に響いてる。でっけェ声だなァ」



萌ちゃんの声が聞こえて、自室から出てきたのか。



「そんな大きな声じゃないモ、」



萌ちゃんは「モン」と言いそうになって、慌てて口を押さえた。



「あー、」



そして、そのまま俯いてしまった。



「えっと・・・副長?」



気まずい。



「萌、」

「・・・」

「萌、」

「・・・」

「萌ちゃん、」

「仕事、残ってるから少し待っとけ」

「え?」



萌ちゃんは、顔上げて副長を見た。
恋する瞳でね。



「俺に会いに来たんだろ?それまで山崎と遊んでろ」



副長は、萌ちゃんの頭をワシャワシャと撫でて自室へ戻った。

キザ〜〜〜〜〜っっ。

「俺に会いに来たんだろ?」なんて、俺には一生言えない台詞だよ。

つーか、山崎と遊んでろって?
俺は萌ちゃんの子守係りじゃねーっつーの。



「モンって言っても、怒られなかったね」

「後で、怒られるのかも・・・」



どんだけ、ビビってんだよ。



「萌ちゃん、副長には何の用事?」

「だからー。土方さんが私の事を心配してくれていて嬉しいって」



それ言って、どーすんだろうと思ったけど黙っていよう。

バカで素直で可愛い萌ちゃんの思考回路は、俺なんかには到底理解できない。

それが、萌ちゃんの魅力なのか何なのかは分からないし。



「壱零Qの彼の事は?何か新しい発見あった?」

「うん」

「何?」

「髪の毛の色を変えたの。ベージュっぽかったのが真っ黒になっていたの」

「・・・へェ」



俺が聞いたのは、そういう事じゃないんだけどな。
あー、でも、恋する乙女にとっては大発見か。



「副長も、黒髪だね」

「でも、土方さんは土方さんだよ?」



どーゆー意味だよ?

何だか、段々分からなくなってきたなー。
萌ちゃんは、Q太郎の事が好きなのか。

それとも、沖田隊長の言う通り萌ちゃんは、やっぱり副長が好きなのか。


でも、それよりも、


「なら・・・俺の出る幕は、もうねェな」


副長の、この言葉は?

萌ちゃんとQ太郎の間に、しゃしゃり出る必要はないってこと?


それとも、

副長の中で、少しでも萌ちゃんを受け入れようとしていたということ?


あー、俺には難しいよ。


二人の想いが、交わる日は来るのかな。


萌ちゃんは、隣でキラキラしながらQ太郎の話をしていた。

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あきゅろす。
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