キャンディ#2
▼約束は、
覚悟はしていた。
「山崎さん、どういう事ですか?!」
「あー・・・」
市中見回りの俺の目の前に立ちはだかる萌ちゃんは、頬っぺたをプクーっと膨らましていた。
「あの後、沖田さんに根掘り葉掘り・・・大変だったんだから!」
萌ちゃんは、きっとこんな風にプープー言うと思っていた。
そりゃ、そうだよね。
一番会いたくない人に会った挙げ句、根掘り葉掘りなんて。
怒るよね。
「うん、ごめん。でも、俺たちの居る場所からキュ、」
「キュ?」
「ンッ、彼の姿は見えなかったから、誰も彼を見てないよ」
アブねー。
危うくQ太郎って言いそうになっちゃった。
「そういう問題じゃないモン」
だよね。
「モンって言うと、副長に怒られるよ?」
俺は、萌ちゃんの膨らんだ頬っぺたをツンと突っついた。
「ねー、山崎さん」
「ん?」
「土方さんは、どうして私に厳しいの?」
確かに「モンは止めろ」なんて言われたけど、副長の事をそんな風に思ってるんだ?
・・・まァ、お父さんみたいって言ってたしな。
「副長は、俺にも厳しいよ?」
「それは、」
「それに、自分に対して一番厳しい人だよ、副長は」
「でも・・・」
「萌ちゃんは、副長の事がキライ?」
イジワルな質問だなー。
「キライじゃ、ない、けど」
「じゃァ、好き?」
「っ!」
困っちゃったかな。
そんなつもりは、ないんだけどな。
「壱零Qの彼の事が好きっていうのと、副長の事が好きっていうのは違うでしょ?」
「でも・・・」
「副長は、萌ちゃんの事を本当に大切に思ってるんだよ。だから、約束してるんでしょ?」
副長に対して、萌ちゃんが少し拗ねちゃうのも分かる気がする。
大切だの、約束だの言うくせに隣に寄り添うことは許されない。
そのくせ、何かと絡んでくる。
それは、面倒臭い父親以外の何者でもないよな。
「山崎さん、あのね」
「うん?」
「約束・・・したの」
「うん」
約束。
副長と萌ちゃんの約束は、とても大きい。
でも、その約束は俺にも当てはまるし、沖田隊長にも、万事屋の旦那にも当てはまる。
真選組なんて明日死ぬかも分からない。
だから、愛する女を傍に置くことはしない。
女を悲しませるだけだから。
女を傷つけるだけだから。
それでも、一度でも自分を好いてくれた萌ちゃんを突き放すことはしなかった。
それが、副長の優しさであって、愛なんだ。
萌ちゃんも、分かっているんだ。
分かっているんだけども、もどかしいんだよね。
「土方さんは、萌を泣かす奴は許さないって」
「うん」
「だけど、そうじゃなく、て、」
萌ちゃんの声は、今にも涙が零れそうに揺れていた。
「うん、」
「土方さん、の、」
護るという大きな約束は出来ても、明日のデートの約束は出来ない。
「手、が、」
「手?」
あー、
副長は、萌ちゃんの頭を撫でてたっけ。
「大きくて優しい手、だよね」
萌ちゃんの大きな目から、ポロリと涙が零れた。
「萌ちゃんが、こんな風に涙を零してしまった時は、傍に居てくれると思うよ?」
俺は、萌ちゃんの涙を拭いながら小さな子供を諭すように言った。
「副長の護るっていう約束は、そういう事だと思うけどな。ただ単に萌ちゃんを泣かした奴をやっつけるってだけじゃないよ」
「山崎さん・・・」
「そういえば、萌ちゃんに心配事でもあるんじゃないかって、副長が気にしていたよ?」
「土方さんが?」
「うん。萌ちゃんが元気がないと副長も心配になっちゃうんだよ」
萌ちゃんと手を繋いで歩いた。
歩きながら、みんなが萌ちゃんの味方だと教えてあげた。
「だから、何かあったら副長に相談してごらんよ?萌ちゃんに好きな人が居るのは、もう知ってるからさ」
「山崎さんは?」
「勿論、俺も相談に乗るよ」
萌ちゃんは、安心したようにニッコリと笑った。
「またね、萌ちゃん」
「ありがとう、山崎さん」
「うん。気を付けて帰ってね」
俺は、萌ちゃんが角を曲がって見えなくなるまで見送った。
萌ちゃんは、やっぱり副長の事を今でも・・・
俺は、萌ちゃんが誰を好きでも萌ちゃんの味方でいたい。
もう萌ちゃんが見えなくなった曲がり角を見つめながら、ぼんやりと思っていた。
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