キャンディ#2
▼Q太郎日和
朝、目が覚めるとカーテンの隙間から太陽が畳を目掛けて一直線に射していた。
いい天気だなー。
「絶好のQ太郎日和だなァ、山崎」
出た。
ロクでもない男。
つーか、Q太郎日和って何だよ?
「ちょ、本当にみんなで行く気ですか?」
「俺にとっても、萌は可愛い妹でさァ」
「俺にとっても、萌ちゃんは大事な大事な妹だぞ」
「局長も?!」
「近藤さんにとっちゃ、娘でしょう?」
「そんなにオジサンじゃありません!なァ、トシ?」
「・・・」
副長は、煙草を咥えたまま眉間に皺を寄せている。
「あの、副、長?」
「何だよ?」
いえ、何でもありません。
やっぱり気になるんだ、副長も。
「先に言っときますけど、Q太郎は侍じゃないですからね。外見で判断して襲うのは止めてくださいよ、特に沖田隊長!」
「Q太郎は、壱零Q(イチマルキュー)のショップ店員でさァ。きっとチャラオに決まってまさァ。どーしやす、土方さん?」
「別に、」
「だから、外見で判断しちゃダメって言ってるでしょうが!!栗子さんの一件で学習してないのかよ」
副長は、相変わらず煙草を咥えている。
別に、なんて言ったけど本当は萌ちゃんの事が、っていうか、Q太郎のことが気になっているんだ。
そうじゃなければ、こんな所まで着いてこないだろう。
「おい、あれ・・・」
萌ちゃんだ。
「ありゃァ、萌じゃねェですかィ」
「萌、」
萌ちゃんは、俺たちと同じように物陰に隠れていた。
その視線の先には、Q太郎が居るんだろう。
だろうっていうのは、俺たちの居る角度からだと、Q太郎の姿が見えなかったから。
萌ちゃんの瞳は、完全に屯所に来ていた頃のようにキラキラしていた。
恋する普通の女の子。
副長は、そんな萌ちゃんを黙って見ていた。
副長は、どんな想いで萌ちゃんを見ているんだろう。
「ちょっと、行ってきまさァ」
「え?ちょっと、沖田隊長?」
沖田隊長は、よー、萌ィ、なんて大きな声で呼びかけながら行ってしまった。
「!!沖田さん!!」
そりゃ、びっくりするよね。
そのリアクションは、間違ってないよ萌ちゃん。
「何で、沖田さんがこんな所に?」
「ショッピングでさァ」
「沖田さんが?壱零Qで?ショッピング?」
「俺が壱零Qでショッピングしちゃ悪いかィ?そういう萌は何してやがんでィ?」
「わ、私も、ショッピング。あー、あの、沖田さん、お茶しませんか?そうしましょう、お茶しましょう!」
「はァ?」
よっぽど、沖田隊長にQ太郎を見られたくないんだな。
萌ちゃんは、沖田隊長の腕を強引に引っ張って、足早に別のフロアに行ってしまった。
「行っちゃいました、ね」
「あァ」
俺たちは、暫く沖田隊長を待ってみたけど戻る様子がなかったので、壱零Qを後にした。
▽
「Q太郎、見れませんでしたね」
「そうだな、」
実を言うと、副長がQ太郎を見れなくてホッとしていた。
あんなチャラい男を見たら、沖田隊長だけでなく、副長もイチャモンを付けかねない。
萌ちゃんに惚れられてしまったせいで、真選組の副長と一番隊隊長にシバかれるなんて、それじゃァあまりにもQ太郎が可哀想だ。
「副長?」
「・・・」
「萌ちゃん、は・・・」
何だか、続きの言葉が見つからない。
「・・・何でもないです」
「はァ?」
副長は、低い声でナンなんだよ、と悪態を吐いた。
まさか、萌ちゃんの恋が上手くいくといいですね、なんて言える筈もないし。
「萌は、」
そう言って、副長は煙草に火を点けた。
吐き出した煙には、溜め息が含まれているように感じた。
「あんな顔すんだな」
「あんな顔?」
「あァ、あんな顔で恋してんだな。知らなかった」
あー・・・
「屯所に来ていた頃も、ですよ?」
「・・・」
「あんな風に、大きな目をキラキラさせて副長を見ていましたよ?」
「・・・そうか」
「そうです」
「なら・・・俺の出る幕は、もうねェな」
少し前を歩く副長の背中は、嫁入り前の娘を想う父親のように淋しそうに見えた。
「ふくちょー・・・」
「トシ・・・」
そんな副長に、かける言葉が見つからずに俺と局長は黙ってしまった。
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