butterfly effect
▼flutter・8
「妙だねィ」
「何がです?」
市中見回りの途中、団子屋でお茶をすすった。
これは、れっきとしたサボリだ。
こんなところを副長に見られたら、と思うと気が気じゃなかった。
そんな事もお構い無しに、沖田隊長は独り言の様に話を続けた。
「気にならねェのか、野郎の携帯」
「あー、」
確かに。
この所、携帯電話を片手にする副長をよく見かける。
誰かと話しているようだけど、そんな事は俺の知る所じゃない。
「オンナでも、できたのかねィ」
「沖田隊長、野暮ですよ」
沖田隊長は、ただ単に副長の恋路を(電話の相手が恋人だと決まったわけじゃないけど)いつもの様に邪魔したいだけなのか。
それとも、俺なんかには計り知れない、深くて甘くて切ない想いからなのか。
沖田隊長の真意は、分からない。
「さて、と。ご馳走さん」
「ありがとうございましたァ」
「勘定は、山崎が払いまさァ」
「え、ちょ、ちょっと」
何で、部下の俺が勘定しなきゃいけないんだよ、まったく。
・・・まったく。
沖田隊長にしても、副長にしても、もう少し心を見せてくれてもいいのに。
「あのーォ、」
「何でィ」
「副長の電話が女性だとして、心当たりは?」
沖田隊長は、楊枝を咥えたままクリクリの目で俺を見た。
「こいつァ驚いた。野暮だと言ったのは、何処のどいつだったか」
「いやっ、それはそうですけどっっ」
「野郎に寄る女なんか、よっぽどの物好きか金目当てのロクでもねェ女さ」
そう言って、俺よりも一歩前を歩く沖田隊長は少し淋しげに見えた。
「え?それって、どういう」
「土方の野郎に、ドヤされる前に戻るぜィ」
結局、巡回っつーか。
沖田隊長と、お茶しに来ただけになってるんですけどっ。
俺の知る限り。
確か、副長と沖田隊長の姉上は上京前に恋愛関係にあったはず。
それなのに、さっきの沖田隊長の言葉は。
"野郎に寄る女なんか、よっぽどの物好きか金目当てのロクでもねェ女さ"
沖田隊長が、自分の姉上を侮辱するような事を言うとは思えない。
もしかして、沖田隊長は副長と姉上の恋仲を良く思ってなかったのかな。
・・・。
だとしたら、とんでもないシスコン野郎じゃないか。
ププッ。
「何でィ」
「え?いえ、何でも」
あぶねー。
心の声が、だだ漏れてたのかと思った。
それにしても。
一体、副長は誰と話してるんだろう。
真剣な表情の時もあれば、穏やかな時もある。
悲しそうな目をしている時も。
・・・。
副長って、こんなに表情の豊かな人間だったっけ。
もっと、クールで不器用な男だと思っていたけど。
あの副長をこんなにも表情豊かにしてしまうのは、やっぱり女性かな。
って、俺がイチバン野暮じゃないか。
▽
「あの、十四郎さん?」
「あン?」
萌は、夜になると部屋に現れる。
他の隊士たちが、寝静まった頃なら部屋に姿を現しても大丈夫だと思ったから、俺が呼んでやった。
それが俺たち二人の暗黙の了解になっていた。
そして、
今夜もいつも通り、萌は俺の部屋に居る。
「ウワサですよ?」
「何が?」
「十四郎さんの携帯の相手は誰なのか、って」
「はっ、くだらねェ」
俺は、煙草に火を点けて煙と一緒に吐き出すように言った。
萌は、そんな俺をクスクスと笑って見た。
「何、笑ってンだよ?」
「だって、」
「ナンだよ?」
それでも、萌は笑っていた。
そんな萌を見て、俺も自然と笑えた。
何処と無く、似ているからかもしれない。
いや、総悟に言ったら「ちっとも似てねェでさァ」と言われる位、似ていないかもしれない。
ただ、
「十四郎さん」と、呼ぶその声に胸が熱くなるのは確かだった。
俺は、
どうしちまったんだろう。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!