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butterfly effect
▼flutter・5
朝飯の時間になっても、野郎の姿がなかった。
心配した近藤さんに様子を見て来いと言われて、野郎の部屋に向かった。

この際だからバズーカでもぶっ放してやろうかと思ったけど、一度だけチャンスを与えてやることにした。

俺の呼び掛けに、返事をしなかったら容赦しやせん。



「ひーじかーたさァん、朝ですぜィ。いつまで寝てるんだよ、土方コノヤ・・・」



野郎の部屋の襖を開けながら、声を掛けた。

が。

野郎は、布団から遥か遠い場所で寝ていた。
というか、倒れていた。



「んっ・・・」



チッ、目ェ覚ましやがった。



「土方さん、朝飯の時間ですぜィ」

「・・・あァ・・・今、行く」

「土方さん、どこで寝てるんでィ。まるでガキみてェでさァ」


野郎は「あァ?」と頭を掻きながら、自分の居場所に驚いた様子だった。



「ひでェ寝相でさァ」

「変な夢、見ちまったんだよ。うるせェな」



野郎は、意味不明な言い訳をしながらダルそうに立ち上がった。



「飯の途中なんで俺ァ、戻りやす」

「あァ、悪かったな」



完全に目を覚ましたようなので、俺は部屋を後にした。

初めから、バズーカぶっ放してやれば良かったと、少し後悔した。
チッ。







暫くすると、野郎が食堂にやって来た。

きっちりと隊服を纏い、いつものくわえ煙草。
さっきまでの野郎は、何なんでィ。



「トシ、お前が寝坊なんて珍しいな」

「あー、イヤ」

「隊士たちに示しがつかない、と言いたいところだが、たまにはいいだろう」

「すまない」



野郎は、俺と近藤さんの向かいに座って茶をすすった。



「副長〜〜〜!!」



山崎が、息を切らして走り寄って来た。



「山崎、食堂だぞ。そんなに走るな!お母さんに怒られなかったのか?全く、最近の若い奴は躾がなってないよな」

「近藤さん、無駄に長ェでさァ。ところで何でィ、山崎」

「あ、副長が寝坊なんてするから心配で・・・」



山崎は胸に手を当てて、いかにも心配したというような仕草をした。



「俺が、朝寝坊しちゃ悪ィのかよ?」

「いや、そういうんじゃないです、けど」

「トシ、それだけお前が普段キッチリしてるって事だよ」

「近藤さんは、ゴリゴリしてますがねィ」

「ゴリゴリって、何?!」

「朝寝坊くらいで、こんなに大騒ぎされちゃ堪んねェな。ごちそうさん」



野郎は、茶だけすすって席を立った。







俺が、朝寝坊?
この、俺が!!!!

こんなことは今までに、一度だってなかった。

俺は、本当にどうかしている。

しかも、俺はなぜあんな場所で寝ていた?


昨日、昨日、きの・・・う。

そうだ、信号の女が出てきやがって。
いや、違う。
そっから、夢だ。
え、どっから?
信号から、夢だ。

俺が、赤信号を渡ったのも単にボーっとしていただけだ。
女は、関係ない。
1ミリも、1ミクロンも関係ない。

なァに、そう考えれば怖いことなんて何もありゃァしない。

俺は、心の中で大声で言い聞かせながら自室の襖を開けた。



「おはようございます」



夢じゃねェのかよォォォォ!!!



「昨日は、急に気を失ってしまうんですもの。ビックリしましたわ」



女は、ちょこんと座ってニッコリと微笑んだ。

透き通るような白い肌、胸まである長い髪。
微笑んではいるが、どこか寂しげな瞳。

これは、まさしく!!



「ど、ど、どちら様ですか?」

「あ、自己紹介ですか。井上萌です。お気づきでしょうけど、幽霊です」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊が俺に、な、な、な、な、何の御用でしょうか?」

「実は・・・」



俺は、幽霊と会話しているのか。
いや、これも夢だな。

ドラマや映画じゃありまいし、幽霊と会話が出来て堪るか。


幽霊と、会話。
つまり、死んだ人間と。


俺は、何を考えてんだ。

あり得ない。

これも夢、だな。

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あきゅろす。
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