butterfly effect
▼flutter・4
山崎に、腕を掴まれて我に返った。
「副長!信号!赤ですよ!!」
あぁ、赤だ。
いや、待て。
俺は、今、何をしていた?
俺は、
俺は・・・
そうだ。
俺も、腕を・・・
そうだ、俺は赤信号だと分かっていた。
そうだ、分かっていたんだ。
だから。
目の前の女が赤信号を渡ろうとしたから、俺は・・・
俺が、女の腕を掴むのが先だったか、山崎が俺の腕を掴むのが先だったのか。
辺りを見回してみたが、それらしい女は居ない。
これって・・・
いや、まさか。
やめてくれ。
嫌いだって言っているだろう。
「行くぞ」
山崎は、心配そうに俺を覗き込んでいる。
・・・ウゼェ。
「ちょっと、ボーっとしちまっただけだよ。ジロジロ見んな、気持ち悪ィんだよ」
「副長がボーっとするなんて・・・」
確かに、俺がボーっとして赤信号を渡ろうとしたなんて、な。
自分でも、驚きだ。
山崎の奴、誰かに話さなければいいんだけど。
特に、総悟とか、総悟とか、総悟とか。
アイツに知れたら何を言われるか分かったもんじゃない。
いや、違う。
容易に想像がつく。
『土方さん、副長ともあろうお方が赤信号を渡るたァ頂けねェぜ。切腹しろ、土方コノヤロウ』
・・・面倒臭ェ。
総悟にだけは、話すなよ。
▽
今日は、何だか妙に疲れた。
信号の女は、一体・・・
顔こそ見えなかったが、掴んだ手首は異様に細くて。
そして、冷たかった。
冷たかった、冷た・・・かった・・・
え?
それって、やっぱり、アレだから?
冷たいワケ、じゃなくて。
あー、あれだ。
異常な低血圧だろ。
若い女は、低血圧が多いからな。うん、うん。
「マジで、いい加減に姿を現しやがれ!」
誰も居ない部屋で一人、大声を上げた。
我ながら、馬鹿らしい。
その後は、少ししか覚えていない。
ふわっとした柔らかい風が部屋に吹きこんで・・・
「こんばんわ」
気付くと、目の前には女が座っていた。
信号の女、だ。
「こ、こんばんわ」
胸まである女の長い髪が風に揺れていた。
俺は、それをぼんやりと見ていた。
ちょっと、待て。
何で、女の髪が揺れてるんだよ。
窓は、閉まっているのに。
あー、何かもう、ダメかも。
俺は、意識を手放してしまった。
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