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butterfly effect
▼flutter・1
「何だ、こりゃ……」



自室の襖を開けるなり、溜め息と共に吐き出された俺の言葉は宙を舞った。

こんなことをするのは、総悟(アイツ)しかいない。


目の前で、山盛りのDVDが部屋のド真ん中を占拠している。
そのどれもが、触るのもおぞましいホラーDVDだ。

ホラーだか、スプラッターだか、サイコホラーだか知らないが、その類いは得意ではない。

白い面を付けてチェーンソーで襲いかかって来るアイツも、赤と緑の縞模様のセーターを着た爪の長いアイツも、テレビから這いつくばって出てくる髪の長いあの女も……


怖い、のだ。


真選組副長、土方十四郎の唯一の弱点かも知れない。



「沖田隊長も、よくもまァこんなに……」



俺の代わりに、そのDVDを片付けていた山崎は呟いた。



「そう言えば副長、ゴーストどうでした?」



山崎は、DVDをダンボールに詰めながら言った。



「……別に」

「泣けちゃわなかったですか?」



泣けたよ。
ザバザバ泣けたよ。


しかし、そんなことは口が裂けても言わない。



「いいから、気持ちの悪ィそれをさっさと片付けろ」



山崎は「はいはい」と返事をして、残りのDVDを詰めた。







俺には、副長が素直に「泣けた」なんて言う筈もないことは分かっていた。


不器用な男。


それが、俺から見た土方十四郎。

辛いことも、悲しいことも、嬉しいことさえも、決して表には現さない。

副長が、素直に気持ちを露わにするのはマヨ関係のみ。
それは、たまに迷惑以外の何物でもなかったりもするけれども。
それ以外の事は、全て自分の中に抱え込んでしまう。

そうやって、何でも一人で背負ってしまう。



土方十四郎は、そんな男だ。



「あ…土方さん?」



俺は作業を終え、部屋を出ようとしたが、その足を止めた。



「あ?」

「…いえ、やっぱいいです。失礼します」



副長が「なんだよ!」と言っているのが聞こえたが、俺は逃げるように部屋を出た。

怒っているわけではないと分かっているけれど、瞳孔の開ききった蒼い瞳で見据えられると何だか緊張してしまう。


それに俺は今日のこと、つまり副長がミツバさんの墓参りをしていたことを言おうとしていたから余計に。



「お前には関係ないって言われるよな。つーか、それ以前にコッソリ見ていたことにキレられるか」



俺は、言わなくてよかったと、胸を撫で下ろした。







「何だァ・・・?」



山崎は、そそくさと部屋を出て行ってしまった。


ジャケットを脱いで、スカーフを緩めるとフゥと溜め息を吐いた。
その大きな溜め息に、自分でも驚いたが気にはしなかった。

煙草に火を点けて、揺れながら天井へ昇る紫煙を見つめる。



「死んでも君を守りたい、か・・・」



柄にもなく、そんなことを呟いて自嘲した。

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あきゅろす。
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