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月の雫 太陽の欠片
*エピソード・1
寒さは厳しさを増していった。

冬が来る度に、俺は萌を思い出す。

違う、思い出すんじゃない。
忘れられないでいるんだ。


萌の笑顔も、声も、温もりも。

あの日、全てが凍り付いてしまったんだ。



エピソード




(寒っ)



冬の校舎は、ひんやりとして薄ら寒い。
俺は足早に教室に向かった。



「井上?」

「トーシロ、」



扉を開けると、萌は窓から校庭を見ていた。



「具合でも悪いのか?」

「うん、そんなカンジ。トーシロは?」

「俺は次の授業の準備だけど・・・大丈夫か?」



俺は、体育で教室が空っぽになったのを見計らって、次の授業の準備をしに来た。

「大丈夫」と、力なく言った萌を横目で見ながら俺は授業の準備を始めた。

俺は気になって、時々萌を見た。

萌は、ぼんやりと校庭を見つめていた。



「井上?風邪ひく。窓、閉めるぞ」



萌は返事をするのではなくて、微笑んだ。



「ねぇ、トーシロ」



萌は遠くを見つめたまま、ポツリと話した。



「私ね、フラれちゃったんだ」


萌は小さな声で、まるで独り言のように言った。



「大好きだったんだ、彼のこと」



長い髪で顔が隠れて見えなかったが、堪えていた涙が零れ落ちて床にポツポツと水玉模様を作った。


俺は、小さな子供を諭すように頭をポンポンと撫でた。



「ふぇーん」



萌は声を出して泣きだした。
色々な想いが胸の中を駆け回っているんだろう。



「大丈夫だ、」



"大丈夫"と言った言葉に根拠はないが、萌に言ってやれる言葉がちっとも思いつかない。

俺には、「大丈夫」と言う位しかしてやれなかった。

ごめん、と俺は心の中で呟いた。
気の利いた台詞も、切なさを拭ってやれるようなことも、何一つ言えない。



「トーシロは、優しいね」

「そんなことねェよ」

「んーん、優しいの!」



涙で濡れた瞳で笑って見せた萌は、とても悲しかった。



「トーシロ、見て!」



窓の外には、チラチラと小さな雪が舞っていた。



「今日、寒いもんね」

「そうだな」



降っては、積もり。
降っては、積もり。

果てしなく続き、やがて儚く溶ける。

そしてまた、降っては積もる。


まるで、恋をするのと同じように。


萌は、降り始めた雪を見つめながら何を想っていた?


その時、萌との間に流れる空気が少しだけ甘い香りに包まれたたような気がしたのは、俺の思い上がりだったのか。


俺たちは、ゆっくりと降り始めた雪を、ただ見つめていた。


涙に濡れた萌の瞳には、白い雪が映って滲んでいた。
それを見て、キレイだと感じた。


俺は、


この時、お前の事が好きだったのかな。



次の授業が始まると萌の姿は、なかった。

俺は、誰にも気付かれないように溜息を吐いた。

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