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キミのためにできること
▼この場所から
空には、雲ひとつない。
近藤さんの出発に相応しい晴天だ。



「トシ、総悟、頼んだぞ」



「あァ」と返事をすると、近藤さんの視線は俺と総悟を通り越した所を見ていた。

近藤さんの視線を辿って振り返ると、萌が頭を下げた。
近藤さんがニカッと笑って見せると、萌も微笑ってこちらに歩きだした。



「近藤さん、色々とありがとうございました」

「いいや。萌ちゃんは真実を素直に受け入れればいいんだよ。何も怖いことはない」



何も怖いことはない。

そうだ。
もうすぐ、終わる。
この澱んだ空気も澄んだ空気に変わり、景色は色を取り戻す。



「近藤さん。これ、召し上がってください」

「おにぎりか。有り難く頂くよ」

「お気をつけて・・・」

「あァ、行って来る」



俺たちは、屯所の門で近藤さんを見送った。
近藤さんの姿が見えなくなると、総悟や他の隊士たちは其々自分の仕事に戻った。

気づくと、俺と萌だけが残っていた。
俺は、妙な沈黙に耐えきれず煙草に火を点けた。



「仕事に戻らなくていいのか?」

「あ・・・、」

「・・・色々、悪かったな」



萌は、ブンブンと首を横に振って、着物の胸元をキュッと掴んで深呼吸をした。



「あの、土方さん?」

「ん?」

「私と土方さんが初めて会ったのは何処ですか?」

「あ?」

「私と土方さんが会ったのはいつですか?初めて交わした言葉は何ですか?」

「お、おい。落ちつけよ・・・」

「すいません・・・ 私は・・・土方さんは、いつから私を愛して下さったんですか? 」



俺は、吸っていた煙草を携帯灰皿に消して胸ポケットに仕舞った。



「・・・ここ」

「え?」

「俺たちが、初めて出逢った場所」



俺は、薄茶色に光る髪に手を伸ばした。



「二年前の春。萌は、ここに居たんだ。頭にたくさん桜の花びらを付けて・・・」



俺の中に、色濃く記されている記憶の一つ一つを、分かち合いたい。

アルバムのページを一枚ずつ捲るように 。



「相当ウロついてたんだろうな、あんなに花びらくっつけて」



萌は、俺の話を黙って聞いていた。
髪を撫でる俺を、拒絶することもなかった。



「怪しいから、俺から声をかけたんだ。そこで何やってんだ、って」



萌は、クスクスと笑って「職務質問ですか?」と言った。
俺も「そうなるな」と笑った。



「萌、俺が・・・」



いつだろう?
俺が、萌に恋心を抱いたのは。



「俺・・・いつもお前を探してたよ」

「土方さん・・・」

「俺、この数ヶ月もずっと、お前のこと想ってたよ」



萌が、心の中から消えたことはない。
今までも、そして、この先も。



「萌、」

「はい」

「俺が、記憶を分けてやる。俺の知ってるお前の事なら話してやるから」



萌の頭をポンポンと撫でてやると、俺を見上げて笑った。


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あきゅろす。
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