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キミのためにできること
▼光の射す場所
暫くして部屋に戻ると、萌の姿はなかった。
その代わりに、俺が投げつけて散乱していたものが綺麗に整頓されてあった。



「萌・・・」



ほんの少し前まで大騒ぎしていたのが嘘のように静まり返っていて、今度こそ本当に終わったんだろうと実感させられた。


悔いはない、と言ったら嘘になる。
あのまま気持ちを押し殺していれば、萌の側に居ることも出来たのかも知れない。

だけど、止まらなかったんだ。
もう、止められなかったんだ。



萌は、何を想っているんだろう。


そんなことをモヤモヤ考えながら、屯所内を当てもなくウロついた。

中庭では、隊士たちが各々自分の時間を過ごしているのを横目に見る。
それを隔てた向かいの近藤さんの部屋に萌が入っていくのが僅かな視界に入った。


俺の足は、近藤さんの部屋に向かっていた。


部屋の前で、呼吸を整える。
萌は、近藤さんに何を話そうとしているのか。



「すみませんでした・・・私、」

「いや、気にしないで。誰かに好意を持ってもらえるのは嬉しいことサ」



俺は、縁側に腰を掛けて部屋の様子を伺った。
盗み聞きなんて、趣味が悪い。



「土方さんから、全てを聞きました。近藤さんはご存知だったんですね」

「いや、あの事件が起きるまでは知らなかったんだ。きっと、二人で大事に育んできたんじゃないかな」

「土方さんに、色々な物を見せていただきました。気になっていたヒマワリの髪留めの事も・・・」



萌は、涙で言葉を詰まらせながら話をしているようだ。
時折、近藤さんが「ゆっくりでいいよ」と言っているのが聞こえた。



「中には、紙切れのメモもあって・・・確かに私の字でした。土方さんがお見舞いに来て下さった時も煙草の匂いに何となく、」

「うん・・・」

「確かに私は・・・!それなのに、何も覚えていないなんて!」



萌の口調が荒々しくなって、自分を責めているように聞こえた。
お前は、何も悪くないのに。



「うん、大丈夫。落ち着いて」

「近藤さん、土方さんは今までどんなお気持ちで私と・・・」



萌の声が、泣き声に変わった。
今すぐ、この襖を開けて抱きしめてやりたい。



「トシの気持ちは、以前と何も変わらないさ。萌ちゃんの記憶が無くても、萌ちゃんが笑顔でいれることだけを願っているのさ」

「近藤さん、土方さんとお話がしたいです・・・きっと、土方さんが私のことを知ってくれているから」

「そうか・・・だけど、くれぐれも焦らないでね。キミの記憶が無くなったのは誰のせいでもない」

「・・・はい」

「キミが愛すべき男はトシだ。キミを護るべき男はトシなんだよ」

「はい」



萌。

俺の知っているお前のこと。
二人のこと。
何回でも、何百回でも話してやる。

すべてを話し終わったら、萌は俺を十四郎と呼んでくれるのだろうか?


久々に見上げた空は、青く澄み渡っている。

俺の見る世界が色付くのも、そう遠くない気がした。

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