キミのためにできること ▼告白 「あ、」 中庭の池に見つけた萌は、ゆっくりと振り返って涙を零した。 「井上・・・」 「私、振られたんですよね」 俺は、何も言えずに萌を見ているだけだった。 「当たり前、ですよね。私、あんなみっともないこと・・・」 「みっともなくなんか、ねェよ」 「土方、さァん・・・」 萌が俺の名を口にした次の瞬間、萌は俺の胸に納まっていた。 一瞬、何が起きているのか分からなかった。 俺の知っている萌の匂いが、鼻を擽る。 「うえーん・・・」 眩暈がした 。 「萌・・・」 小さく萌と呼んで、 「萌・・・好きだ」 萌を抱きしめた。 抱きしめる腕に力を込めると、萌がピクリと動いた。 「どうして・・・」 「え?」 「どうして、そんなこと言うんですか!」 萌は、涙をポロポロと零しながら俺の胸を押して退けた。 俺の胸をドンドンと叩いて泣く萌。 だけど、「萌」と呼んでしまった俺は何かが弾けてしまったんだ。 お前が例え、近藤さんに惚れていると分かっていたって。 お前が、俺を受け入れてくれなくたって。 もう、止まらないんだ。 押し退けられては、抱き寄せ、退けられては、抱き寄せた。 「好きだ」と、何度も繰り返した。 「やめてください!!」 何度目かに、振り上げられた細い手首を掴んで萌を見据えた。 「好きだ・・・」 出てくる言葉は、それしかなくて。 目の前の萌は、泣いていて。 泣かしたくなんかないのに。 涙は、見たくないのに。 「・・・来い」 「どこに、ですか?」 「いいから、来い!」 俺は、嫌がる萌を強引に引き摺って歩きだした。 「何なんですか!」「嫌です!」「やめてください!」と、抗議の声を上げる萌を無視して自室へと歩いた。 「土方、さん・・・?」 俺を呼ぶ声は、やっぱり涙に揺れている。 「お前が、気になるっつってたヒマワリの髪留め・・・俺が、選んだんだよ!」 二つの髪留めを手に迷っていた萌は、可愛かった。 ヒマワリが、本当に似合っていたんだ。 「お前、俺が病院に行った時、煙草の匂いも気にしたよな?」 「・・・?」 「これは、」「これも、」と、部屋中をひっくり返して萌が俺の部屋に残していったものをぶちまけた。 「萌・・・俺たち、愛し合っていたんだよ」 部屋の隅で、小さくなった萌を抱きしめた。 「だけど・・・ヒマワリの髪留めを買った帰り道、俺たちは攘夷浪士に出くわしちまったんだ」 「・・・っ」 泣いている萌を抱きしめたまま話した。 「萌・・・怖かったよな?こんなことになっちまって、すまないと思ってる」 「・・・っ」 声にもならず、嗚咽するだけの萌の髪を撫でた。 「ずっと、こうしたかったんだ・・・萌、」 ずっと、こうしていたかったんだ。 萌は、抵抗するわけでも受け入れているわけでもなかった。 俺の胸の中で、ただ泣いているだけだった。 俺は、萌の首元に顔埋めて抱きしめる腕に力を込めた。 もう、離したくない。 「萌、萌・・・」 胸が痛かった。 「ごめんな・・・」 それだけ言って、俺は部屋を出た。 襖を閉めると、萌の泣き声が聞こえた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |