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キミのためにできること
▼ライター
「あれ?」



山崎が、俺を見て声を上げた。



「何だよ?」

「いや、ライターが・・・イチゴォォォォ?!」



俺は、萌に貰ったライターを使っていた。



「悪ィかよ?」

「悪かないですけど・・・そんな可愛いの、どうしたんですか?」

「何だっていいだろ、別に」



俺は、ヤラシイ顔してニマニマしている山崎を横目に煙草に火を点けようとした。



「チッ、てめェがゴチャゴチャ煩ェから点かねェじゃねェか」

「単なるガス欠でしょうが!マッチ取って来ますよ」



単なるガス欠。

ただ、それだけの事なのに何となく寂しくなった。
それでも俺は、カチカチとライターを点けようとする。
ライターは、小さな火花を微かに散らすだけで火は点かなかった。



「ガス欠ですか?」



不意に、声をかけられて上手く返事ができなかった。



「あ、あァ」

「また、可愛いの買って来ましょうか?」



萌は、冗談っぽく笑って言った。



「あァ、頼む」



萌は、俺を見て「冗談ですよー」とケタケタと笑った。



「こないだは失礼しました。忘れて下さい」



食事に行った帰りの事か。


俺には、癒せないと知った萌の涙。
忘れられる筈もなかった。



「今度は何がイイかな?たくさん種類があったんですよー」



萌は、すぐに話を元に戻して何でもない顔をした。

本当は、無理しているんだろ?



「任せる、」

「はい」



「副長〜、マッチ持って来ましたよ〜」と、山崎が間抜けな声を出して戻って来た。



「あ、萌ちゃん。副長と何の話ィ?」

「うふふ、内緒です」

「えェ、!!内緒?!」

「では、失礼します」

「またねー」



萌の後ろ姿に手を振りながら、山崎が口を開いた。



「萌ちゃん、イイ子ですね」

「・・・あァ」



「でも・・・」と言って、山崎は空を仰いだ。



「記憶がない・・・って、どんな感じなんだろう」



山崎は、空を見つめたままポツリと話した。



「きっと、不安なんだろうなァ。萌ちゃんは元気に振る舞ってるけど」



何も言えなかった。


不安に決まってる。
辛いに決まってる。

俺には、不安も辛さも拭えない。


自分の非力さを、山崎に指摘されたようだった。



「でも、その分、俺たちがカバーしてあげればいいんですよね!」

「・・・そうだな」



俺は、山崎の持って来たマッチで煙草に火を点けた。

煙草は、ちっとも味がしなかった。







イチゴ、カエル、ヒヨコ、ウサギ、星、キャンディ。
それから、子犬とペンギン。

机の上には、萌から貰ったライターが並んだ。


ライターがガス欠になると、萌に新しいライターを買って持って来るように言った。



「私、最近ライターばかり買ってる気がします」

「ん?」

「つまり、吸い過ぎではないかと・・・お身体に障ります」

「・・・そうだな」



そう言って俺は、煙草を灰皿に押しつけた。



「いえっ、違います!あの、吸って下さい!」



慌てて、しどろもどろになった萌が可愛くて、愛おしかった。



「プッ、吸って下さいってナンだよ?」

「・・・偉そうにすいません」

「いや、自分でも吸い過ぎだって分かってる」



萌が、俺を見て微笑む。
俺も、同じ様に微笑う。

空気が優しい。


気持ちが穏やかになる。


こんな単なる雑談でも、萌との時間が欲しかった。


もう、何だっていいんだ。
お前の隣に居て、こうして話をして、穏やかな時間を過ごせれば。


それが、恋人ではなくても。

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