キミのためにできること
▼一歩
“お疲れ様です”
そう言った萌の顔は、とても眩しくて思わず目を逸らしてしまう。
「土方さん?」
萌の前では、普通ではいられない。
変な緊張感と、トキメキ。
その眩しさに、クラクラする。
「隣、いいか」
今更、平静を装ってみても遅いか。
手遅れなのは分かっていても、一応。
「どうぞ」と萌は、ニコリと笑う。
俺は、溜め息と一緒に腰を下ろした。
「土方さん、お疲れなんですか?」
「いや、どうして?」
「随分、大きな溜め息を吐いていましたよ?」
そう言って、萌は心配そうに眉をハの字にして俺を覗き込んだ。
「ちょっと、な。考え事だ」
「あまり無理なさらないで下さいね」
俺は「あァ」と返事をして煙草に火を点けた。
何だか、お前に見透かされているようで少し笑った。
それに応えるように、萌は微笑った。
「あの、よ」
「はい、」
「お前、次の休みはいつだ?」
「休み、ですか?」
「食事・・・行くか?」
「っ!!本当ですか?!」
「あ、あァ」
「嬉しい!もう、お忘れになってしまったかと思ってました」
忘れるわけねェよ。
今の、この瞬間も。
お前の空白の時間も。
「そうか、悪かったな」
「そうだ!近藤さんもご一緒に」
近藤さん?
「あ、あァ、そうだな」
萌は、跳ね上がって喜んでいた。
あの日、初めて約束をした日も同じように喜んでいた。
萌は、何も変わっていない。
「そうか、なら良かった」と、俺は煙草に火を点けて萌を眺めた。
▽
「萌ちゃんが、そんなことを?」
「あァ、近藤さんも一緒にってよ」
近藤さんも一緒にと言った萌が頭から離れなかった。
黒い陰が、俺を惑わせる。
「そいつァ多分、お前に気を遣ったんだ」
「俺に?」
「お前、こないだコーヒーしか飲まなかったんだって?」
萌は、自分だけが食事したことを気にしていたらしい。
「自分では、お前の食事相手には役不足なんじゃないかってな」
「別に、そんなつもり」
「分かっているさ。俺は都合が悪い事にして二人で行ってきたらどうだ?」
思ってもいなかった。
あの時、萌がそんな風に感じていたなんて。
「いや、来てくれ。そういうことなら、近藤さんが居なかったら萌が不安がる」
ただ、嬉しくて。
旨そうに、パンケーキを頬張る萌が愛しくて。
不意に見せる笑顔が、たまらなく嬉しくて。
ただ、それだけなんだ。
それだけだったんだ。
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