キミのためにできること ▼昔話 俺たちの再会は、決して素敵なものではなかった。 涙の溢れた大きな瞳で、萌は俺を見ていた。 萌、 お前の目には、俺は一体どう映っている? 「近・・・ど・・・さん」 「大丈夫だよ。トシはキミを助けたんだから」 「私を・・・」 急に、そんなこと言われても「はい、そうですか」と納得できるわけがない。 そんなことは、分かり切っていたはずなのに胸が痛い。 「でも、この人は・・・」 「相手は、攘夷浪士だ。斬られても仕方ないことをしているんだ」 「でも・・・」 胸が、痛い。 心が、痛い。 「また、来ます。近藤さん、外で待ってる」 俺は、病室を出た。 今の俺には、痛すぎて。 近藤さんは、萌に話を続けていた。 たまに、萌の声も聞こえたが幾分、落ち着いているようだった。 「俺とトシはね、武州から一緒に出てきたんだ。同じ魂を抱いてね」 近藤さんは、まるで子供に聞かせるかのように昔話を始めた。 その話を、俺は目を閉じて聞いていた。 ▽ 近藤さんは、俺たちが出会った時の事から話し始めた。 武州の景色や、匂いの事。 そして、俺たちが上京して真選組として生きていること。 俺の意識も、ゆっくりと記憶の中へ溶け込み始めた。 「以前、トシは妖刀に取り憑かれてしまったことがあってね。別の人格に飲み込まれて・・・っていうのかな」 「妖刀・・・?」 「嘘みたいな話だけどね。あの時、トシはもう戻って来ないと諦めたんだ。だけど・・・奴ァ、最後のクソ力振り絞って、俺に言ったんだ」 【近藤さん、 あんたは真選組の魂だ 俺達はそれを護る剣なんだよ】 「そこに至までには、色々あってね。俺ァ、トシを切り捨てたんだ。そんな俺にトシは・・・」 「近藤さん・・・」 「俺の魂が折れずにピッカピカに輝いていられるのは、トシのお陰なんだ」 「魂・・・?」 「武士の魂。これは俺とトシだけじゃない。真選組隊士全員が魂と魂で繋がっているんだ。だから、俺にとってトシもかけがいのない魂なんだ」 近藤さん・・・ 「女の子には難しいかな?」 かけがいのない魂、か。 顔に似合わず、カッコつけたこと言いやがって。 「話しが長くなってしまって、ごめんよ。また来るよ」 ドアが開いて近藤さんの肩が見えた時、中から萌が「近藤さんっ」と、呼び止めた。 「ン?どうした?」 中の萌の様子は伺い知れないが、少し沈黙が流れた。 「大切なお話を、ありがとうございました・・・」 「いや、こちらこそ聞いてくれてありがとう」 「じゃ」と言って、近藤さんは部屋のドアを閉めた。 「トシ!居たのか?てっきり一服しに行ってるモンだと・・・」 「カッコつけやがって」 俺は、近藤さんの胸にトンと拳骨を当てた。 「トシ・・・」 「・・・ゴリラのくせに」 ぼそっと言って、俺は先を歩いた。 「え?今、ゴリラって言った?ゴリラって言ったよね?」 萌に、近藤さんが言わんとしていたことが伝わっただろうか。 俺が、どうとかじゃなくて。 真選組が、どんな人間かということが。 俺たちの、真選組の魂が伝わっただろうか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |