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キミのためにできること
▼真実
俺は、少し緊張していた。

何故だろう。


もう、何年も逢っていなかった恋人に逢うような緊張感。

そして、ときめき。


スカーフを締めて、煙草に火を点ける。
煙草の本数は、確実にいつもより多い。



「萌・・・」



もう、涙で揺れる瞳を見たくはない。
笑顔でキラキラと光っている瞳を見せてくれ。


そう願って、煙草を灰皿に押し付けた。







「トシ、俺が先に行くから」

「あァ、」



近藤さんが病室のドアをノックすると中から「はい」と萌の声がした。
それだけで、胸が熱くなる。

ドアの向こうには萌が居る。

俺の鼓動は、痛いくらいの早さで脈打った。



「オッス、萌ちゃん」

「こんにちは、近藤さん」



中から、二人の声がした。
あァ、明るい元気な萌だ。



「じゃじゃーん、おみやげ〜」

「お団子!」

「ここの団子は、すっごーく美味しいんだよ。真選組でも大人気さ」

「本当ですか?」

「あァ。トシって奴がいるんだけど、そいつなんてマヨネーズぶっかけて10本も食べちゃうんだから」



マヨは、どうでもいいだろ。



「マヨネーズゥ?」



ほら、引いてるじゃねーか。



「萌ちゃん、真選組のみんながキミを心配してるんだ。今日は、そのウワサのトシもお見舞いに来たんだよ」

「トシさん、ですか?」

「うん。でも、その前に俺の話を少し聞いてくれるかな?」



急に部屋が静かになった。

近藤さんは、いよいよ本題に入ろうとしている。

俺は、じっとりと汗をかいていた。



「何ですか?改まって」

「うん・・・俺は、決して萌ちゃんを驚かそうとか、イジメようとか、そういうんじゃないんだ。これだけは信じて欲しい」

「お話が見えないですけど・・・近藤さんが、そう言うなら・・・」

「ありがとう。俺はね、真実は一つだと思っているんだ。萌ちゃんにも真実を知ってほしい。受け入れるかどうかは、問題じゃないんだ。ただ、真実を知って欲しいんだ」



真実、か。


何がどうであれ、俺が萌を愛しているという真実は変わらない。

それが、たった一つの真実だ。



「実は、そのトシって奴は萌ちゃんを助けた人物なんだ。自分も負傷してね。俺に連絡が入って、キミを病院に連れてきたんだ」



近藤さんは、ゆっくりと萌に話を続けていた。

そして、近藤さんは萌がパニック状態から記憶を失くしてしまったことを話した。
萌は、黙って話を聞いているようだった。



「トシも、とてもキミを心配しているよ。呼んでもいいかな」



「トシ」と名前を呼ばれると、心臓がドクンと大きな音をたてた。

俺は、そっとドアノブに手をかけた。



「彼が、トシだよ。土方十四郎」

「・・・土方、です」



言葉が見つからない。



「土方です」と名乗るだけで、精一杯だった。
今にも駆け出して、萌を抱き締めたかった。



「なんだ、黙っちゃって。トシも心配していたんだよな」

「あ、あァ。」



ベッドの上の萌は、小さかった。
俺を見て、少し震えていた。



やっぱり、


俺に脅えているのか。



「近藤さん、こ、この人・・・」

「ん?彼がトシだよ。大丈夫、俺を信じて。」

「この・・・人・・・」



萌は、瞬きもせずに俺を見ていた。



その瞳は、



涙に揺れていた。

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