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風の噂(戦ムソ3 宗茂×元就)
元就ED、半兵衛ED、宗茂EDを含みます。






宗茂は乱世が終わって間を置かずして、所領そっちのけで諸国を巡る旅に出ていた。
いつもの気まぐれで久しぶりに郷里の土を踏んでみようと西に馬を走らせていた道中、丁度安芸を通りかかった。そこでふいにあの抜けた謀将のことを思い出して、顔を出してみようと馬頭をその居城に向けたのである。





元就が信長を討ってからというもの、元就の首を求めて攻めてきた勢力数知れず、その度に元就は溜息をつきながら西国の大名を束ねてそれらを撃退していたが、乱世の終息はあまりにも突然やってきた。
豊臣の家臣である、竹中半兵衛と黒田官兵衛が和議を申し立ててきたのだ。
早く隠居したがっていた元就がその話に乗らないわけがなく、泰平の世作りは秀吉を中心に奥州の王や豊臣の子飼い達、それから自分の家臣達にまかせ、元就は本格的に隠居して著作に励んでいる…と、聞いた。

あれから数年経つが、膝の上に乗せた猫を撫でながらまさに著作真っ最中の謀神の姿は何ら変わらず若々しく、現在の毛利家当主は孫だというし、一体この人は何歳なのだろうと宗茂は一瞬眉根を寄せる。が、そんな不思議も深く考えることはせず、近くの書物の山から一冊を取って表紙を捲ってみた。
久しい挨拶を交わすと元就が口を開く。
“宗茂が旅に出てからギン千代殿が鬼の形相でやってきて、宗茂をそそのかしたのは貴様かと殺されそうになった”とか、“ようやく著作に明け暮れる日々を迎えることができると思えば、文治の問題の相談を次々と求められて一向に筆が進まない”とか、愚痴の多さは相変わらず。
でもどこか心地よく、宗茂は口元を穏やかに引き上げた。
人を殺す策を考えていた以前に比べれば喜ばしいことだ。

「この書も、元就公がお書きになった歴史書ですか?」
「ああ、うん。そう、だね。」

少し歯切れの悪い返事。
一重の小さな黒い瞳だけを宗茂に投げかけちょっと躊躇う素振りを見せて、膝の上の猫が急かすようにニャアと鳴く。
後頭部を掻いてため息をついた。

「それは私の一族についてを書いたものなんだよ。」
「私はね、若い頃に父も母も兄も兄の子も亡くしてしまってね。それから、親より先に逝ってしまった息子のことも。彼等が埋もれないように書き記しているんだ。」
「へえ。…いつもながら冗長な内容ですね。」
「はは、うん。半兵衛殿からも辛辣に言われてしまったよ。」

元就に助言を求めてくる者というのは、主に竹中半兵衛と黒田官兵衛の二兵衛らしく(元就曰く、主に仕事の話をするのは官兵衛であり、半兵衛は寝ていたり餅を食べていたりその辺の書物を読み耽るばかりらしい。)、最近元就が住まう吉田庄は客の出入りが激しく賑やかなのだそうだ。

「彼等はよくここに来るんですか?」
「大概あの二人は一緒に来る。どうやら半兵衛殿が無理矢理官兵衛殿を連れてくるらしい。官兵衛殿はここに来たときはいつもムスっとしているよ。だが、しばらくするとずっと庭を眺めている。以前に比べて雰囲気が穏やかになったな。」
「そうですか。」
「半兵衛殿は来るたびにいつも部屋を掃除しろと言ってね。」
「へえ。」

宗茂は苛ついていた。
どうしてこのように苛つくのかとほんの少し考えた答えはすぐに浮かんだのだが、らしくない甘酸っぱさについ苦笑いが浮かんだ。

「元就公。」
「何だい?」
「俺のことはどうお思いですか?」
「風、だね。」
「風?」
「何処吹く風とは言わないが、掴んだと思ってもさらりと抜けてまた何処かへ行ってしまう…。ああ、だが、私の夢を一緒に掴んでくれた一番便りになる矢の一人だ。」

ああ、分かっているようでわかっていない。
小さく首を横に振ると、元就の口癖を口にした。

「やれやれ…。そうではないですよ。」
「え?じゃあ、どういう意味だい?」

宗茂は黙ったまま、ずいと元就に顔を近づけた。
元就は戸惑った顔で目の前にやってきた宗茂の顔を避けるように、後ろへ体をずらす。その拍子に猫が元就の膝から飛びのいた。
猫さえ空気が読めるのに、戦場では奇才と謳われる目の前の人はまだ何がどうなっているのかわからないようで、宗茂は面白くなってきてさらに体を元就に近づけた。

「え、あ、何、何かな?」
「だから、俺のことはどう思ってるんです?」

宗茂が一段と低く呟き、そこでやっと意味を理解した元就は、酷く慌てて弁解のような何かを呪文のように早口でまくし立てながら、宗茂から距離をとるように座ったまま後ずさった。
が、その後ろには乱立された書物の山である。

「うわ…」

案の定盛大な山崩れと雪崩が起きた。その程度といえば小さな地震が起こったほどであり、普通の居城ならば何事かと誰かが飛んで来そうなほどの。
しかし家臣は誰一人として来ず、いっそ時が止まったかのように静まり返っていた。
思わず目を閉じて後ろにひっくり返った元就だったが、不思議と体に書の重みを感じなかった。
そういえば書の衝撃を受けてもいない気がする。
なんだか嫌な予感がしておそるおそる目を開けると、やっぱり。
自分に覆いかぶさった宗茂が不適に笑って見下ろしていた。

「誰も来ない…元就公、不用心過ぎじゃないですか?」
「あ…あはは、本が崩れることはしょっちゅうだからね。もう誰も手伝ってはくれなくなってしまった。「そうですか。しかしこれは好都合だ。」

どこか怖い宗茂の様子に、元就は唾を飲み込んだ。
上下した喉が震えている。
宗茂の向こうには晴れ渡った空が見えた。
開けっ放しの戸、誰か来たらどうしようと今更元就は自分の無精を酷く呪った。
檻のように己を捕える宗茂の腕を弱弱しく掴み、少し引っ張ってみるが勿論びくともしない。

「あの、どいてくれないか?私はそういう趣味はちょっと…」
「嫌です、といったら?」
「う…し、しかし君にはギン千代殿が…」
「今は関係ない。」
「大いに関係あるじゃないか。」
「何をしている。」

元就は一瞬心臓が止まったかと思った。
この場にいないはずの女の声。
やっと宗茂は元就を解放してくるりと後ろを振り返ってみれば、久しぶりに見る嫁の姿があった。

「ギン千代、久しぶりだな。どうしてここに来た?」
「暇な故、元就と手合わせを所望しに。…貴様、帰って来ぬと思えばこのような所で油を売っていたか。」
「元就公は元気でいるかと思ってな。」

元就は意味が分からなかった。
つい一瞬前までの宗茂の行動・言動、ギン千代がここにやってきたこと、そしてあんな様子を見られたというのに余裕綽々の宗茂の態度。
ただただポカンと2人を眺めているしかなかった元就を、ギン千代はジロリと睨んで。

「立花を誘惑するとは、それも貴様の智謀か?」

殺気を惜しみなく垂れ流し、腰の雷切にゆうるりと手をかけた姿は般若の如く。
我に返った元就は、必死に首を横に振って弁解する。

「違うんだ待ってくれギン千代殿!むしろ私は被害者で、「そう、元就公が可愛くてね。」
「!!宗茂ッ!!私には可愛いなどと言わぬくせに何を!!」
「ちょっと二人とも、私は「貴様は黙っていろ!!」


その後、吉田郡山城は元就を巻き込んだ修羅場と化し、ギン千代が怒りと悔しさのあまり泣き出してしまうまで続いた。

以降宗茂は九州に留まり安芸にもよく訪れるようになって、元就の居城はさらに賑やかになったとは風の噂。









違うんです、あれ?もうちょっとシリアスになるつもりだったんだけどな。



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