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三國4






※無双OROCHI無印ベースの話です。








江を奔り、交代で見張りをしながら、それぞれ2度仮眠を取った。
鈍い江の流れと幅は変わることはなく、江沿いに敵や味方の姿を捉えることもなかった。

ただ、先ほど江岸に小さな村をひとつ見つけて立ち寄ってみた。
この村は、以前長安近くに存在していた村で、運よく魔物の襲撃も受けずに村の機能を保っていた。しかし、突然の自然の猛威におびえ、どこにも足を伸ばさずに居たのである。
だから、2人が齎(もたら)した情報に、民達は大いに喜び、歓喜した。

今、凌統は走舸の船室に入り、寝台に横たわっていた。今は甘寧が見張りをしている。
背中全体に江の流れる音を感じながら目を閉じた。そうしているだけで未だ自分は孫呉にいて、これから合肥に向かう途中なのだと錯覚しそうだ。けれど、すぐに瞼の裏に先ほどの長安の民の喜ぶ顔が浮かんで、ここは別世界なのだと思い知らされる。凌統は長安に行ったことがない。きっと、こんな世界でもなければ、一生話をすることもなかったかもしれない、長安の民たちと話をしたのだ。

(変な感じだけど・・・これで案外、天は一つになったりするのかもな。)

それから、甘寧のこと。この船に乗って時は浅いのに、狂ったように何度も体を繋げている。
体内で燻った炎が消えず、互いの姿を見ると何度も炎が燃え盛るのだ。どちらともなく構ってほしい猫のように無言に擦り寄り、やがて互いを欲して絡み始める。
陽が傾かないし、二人しかいないのだからと、外が明るくても天の下で体をつないだこともあった。
最初は明るい外での行為に抵抗があった。けれど、自分と甘寧しか居ないのだ。最悪、自分の胸に閉まっておける。それに、甘寧は案外口が堅い方であることも知っている。だから最初は抵抗があったものの、己の中の色づいた炎に身を投じてゆき、回数を重ねていった。

ついさっきも。
交代するのにこの船室に入って来た時、丁度この寝台で甘寧が寝ていた所に、自ら跨ったのだ。
船室の窓の外は曇り空。2つある太陽のうちの1つが、窓の縁に見える。
例えば世界が戻ったら。天の太陽のうち一つは消えるのだろうか。その時は、このよくわからない色づいた一時の夢も一緒に消してしまおう。それでいいと思う。

(だって、世界が元に戻るってことはさ、あいつはまた俺の仇になるんだ。)

でも、また、甘寧を恨むことができるだろうか?それを考えた途端、凌統の心に焦りのようなものが生まれた。
そんな時丁度、船室の戸が開いた。

「おい、凌統。」
「あ、ああ、何だい?」
凌統は考えが途切れたことに少し安心して、すぐに飛び起きた。甘寧はやや緊張した顔で、無言のまま顎をしゃくって甲板に来いという。
甘寧は身をかがめて船の縁まで移動する。凌統もそれに倣い、ついていった。

「下流のほう、見てみろ。」

甘寧が低く呟いた言葉通り、そっと顔を縁より出して目線を進行方向にずらす。目を見張って僅かに身を乗り出した。闘艦が2艙、走舸も見えるだけで7艙停泊していた。遠くてよく見えないが、走舸の形は今自分達が乗船しているものと同じ。
孫呉の船団だ。
だが、この船を奪った時のように敵が乗船している可能性もある。

「近づくよな。」
「当たり前だろ。」
「こっちは碇を下ろしてるのかい?」
「ああ。あっちも動いてねぇし、互いに様子見ってとこだろうぜ。」
「そっか。人影は?」
「少しあったが・・・距離がある。こっからじゃあどこの連中かはわからねえな。あ!」

そうこう言っているうち、船団のうちの走舸一艘が動き出した。その動きは明らかにこちらに向かってきていて、二人はじっとその様子を見ていた。
水を掻きわけて進む船の音が大きくなり、相手の船が弓矢の間合いに入った。
同時に少し後方に跳んで構えをとった二人の目に見えたのは、船の縁から身を乗り出してこちらを見ていた、孫呉の若い軍師の姿だった。



走舸同士が並ぶ前に、陸遜は待ちきれないというように、船の縁を飛び越えた。
そして、戦の時の俊足のまま二人の所に駆け寄り、珍しく凌統に抱きついた。

「甘寧殿、凌統殿っ!ご無事で・・・ご無事で何よりでした!」

見上げる陸遜の大きな瞳には少しばかり涙が滲んでいて、この時ばかりは軍師というより、年相応の少年の顔をしていた。
甘寧と凌統も、顔を見合わせて互いに安堵の表情をし、陸遜の無事を讃え、碇を上げて船団のほうへと合流した。







陸遜は、甘寧等が合肥で魔物の軍勢と対峙していた頃、孫権や呂蒙、周泰とともに建業の地を守っていた。
合肥が崩されたと聞いた時、孫権と呂蒙に、逃げるようにと伝えられた。

“陸遜、お前は逃げろ。”
“何をおっしゃっているのですか、呂蒙殿!私もここで、孫呉とともに果てるつもりです!”
“陸遜、お前は若い。次代を託すのはお前しかいないのだ。この世界に来て、私は父上とまた会えた。だから、きっとお前ともまた会えると信じよう。その時までのしばしの別れだ。”
“そんな・・・”
“陸遜、城の裏手に船を用意している。兵も武器も兵糧も積んで朱然が待っているぞ。早く行ってやれ。”

脇を見上げれば兜の下からこちらを見ていた周泰の細い瞳と視線がかちあい、周泰は小さく頷いた。
そうして、陸遜は城の裏手に走りだし、朱然の待つ船に飛び乗って出向したと同時に、建業の城から怒号が聞こえた。
後ろは振り向かなかった。追手は来ず、船を全速力で奔らせ、やがて辺りは静かになった。
心に穴が開いたようだ。
ゆらゆらと揺れる船の揺らぎは、己を慰めるように穏やかで、船の縁から川辺を見下ろした自分の顔を見た時、ぽとりと何かが落ちたのに気付いて、水面に映った自分を見て初めて自分が泣いていると知った。
だが、すぐにそれを拭った。
泣いている暇などないのだ。陸遜は朱然と力をあわせ、すぐに己に託された任を探るように江を奔りながら各地を転々としていた。その間、味方と思しき人を見つけては合流して船に乗せ、敵の小さな軍勢を見つけては駆逐した。
そこで、偶々見つけた一艘の船に乗っていたのが孫呉の猛将二人の姿。
やっとこの世界での己の時が動くと、陸遜は胸が熱くなった。



陸遜は、甘寧と凌統二人を闘艦の船室へ通して、中央の卓に座らせた。そこには朱然もいた。

「まず、孫呉を襲ったのは遠呂智という魔物の軍勢で間違いありません。そして、この世界には孫呉の他に、魏蜀、それから、私たちとは別の民族の勢力も存在しています。」
「そいつらの村に、世話になったぜ。」

 甘寧の言葉に、陸遜は小さく頷く。

「軍師さん、前線で蜀の軍師がその・・・遠呂智軍の中にいたのを見たぜ。その他にも、蜀の将を見た。」
「おそらく、蜀は遠呂智軍の属国になったのでしょう。孫呉もその可能性が高いですが・・・孫呉の将が戦っているという情報はまだ耳に入ってきません。魏はわかりませんが、曹操は死んだという噂が立っています。それから、私のように小規模ではありますが、遠呂智に対抗する反乱軍という存在も点在しています。今は一つでも多くの反乱軍と合流して、力をつけることが重要でしょう。」
陸遜が言うと、卓を囲むように目の前に座っている甘寧と凌統が、力強く頷いて見せた。
それにしても、と、陸遜は思う。 自分の前に座っている甘寧・凌統の両将軍は、世界が狂う前は険悪な仲であった。特に凌統は、親の仇といって甘寧の命を本気で狙っていて、一瞬即発という場面に居合わせたこともあった。
しかし今はどうだ。
合肥での戦以降、孫呉の武将達の消息が掴めぬまま行動していた陸遜は、まさか二人一緒に行動していたとは思ってもおらず、二人の間に流れる空気は陸遜の知っているものよりもずっと穏やかになっていて、小さく笑みを漏らした。
そして、ふとある事を思い出した。

「凌統殿、もしかして素手で戦っていたのですか?衣も・・・」
「ん?ああ。そうだけど。合肥でやられちまったからねぇ。」
「甘寧殿は・・・甲刀ですか?」
「おう。覇江は刃が逝っちまって、捨ててきた。」
「なら!お二人とも、ついて来てください。」

 

陸遜は、孫呉からありとあらゆる武器や防具を持ち出していた。それは、危険を察知した孫権が持たせたものであったが、その中には武将たちの武器もあった。
孫呉がどうなってしまっても、孫呉で働く者たちのためにと用意した品々。
闘艦のすぐ脇につけていた走舸の船室へ入りこみ、見張りの兵に陸遜が何かを伝えると、兵は奥のほうに走り去り、やがて自らの新しい防具と布に包まれたものを持ってきて凌統に渡した。

「凌統殿、どうぞ。」

自らの新しい防具はともかく、その布に包まれたものは何だろうか。
しかし、渡されたその重みで、凌統ははっとした。
気分が高揚していくのを感じながら布を広げてみると・・・それは己の武器である怒濤であった。
思わず手に持って一度振ってみる。体に馴染んだ風を切る音。本当に本当に、自分の武器だ。

「・・・俺の武器・・・。」
「私はこの船を殿から丸ごと受け渡されました。ですが、ここにある物は、私が頂いたものではなく託されたものです。・・・それでは甘寧殿、こちらへ来ていただけますか?」

 凌統が子どものように怒檮を振るい出したのを横目に、甘寧は陸遜に連れられて船室の奥へ進む。

「凌統殿とは・・・随分穏やかな関係になられたのですね。」
「味方があいつしか居なかったからな。」

陸遜は少しばかり微笑み、船室の奥にあった横長の箱を手にして甘寧に渡した。

「貴方の武器です。」
甘寧は表情を変えずそれを貰い受けると、箱の蓋を開いた。
そこには、物々しく布にくるまれた覇海があった。刃が僅かな光を照り返し、箱の中では居心地が悪い、早く何かを斬り裂けと叫んでいるように見えた。
手を伸ばして柄を握りこむと、すぐさま刀が納められていた両断した。やっと暴れられる。刃をじっくりとなぞるように、目線で横に辿る。
その時、刃の向こうを通り過ぎた人物があった。
孫呉の将で見たことはあるが、見慣れない将だ。
誰だっけと思いめぐらし、やっと思い当った人物に、甘寧は驚いてその場に佇むしかできなかった。




9へつづく




オフ用に1年以上前に書いた話なんですが、出しそびれた感がしてw、
次はあの人が出てきます。


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あきゅろす。
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