三國4 泡沫のあとに8(※R-18) ※R-18 船団は、南昌のすぐ手前の、江の入り組んだ複雑な地形に船を潜ませて、その秋(とき)を待っていた。 陸を行く別働隊は既に出発している。別働隊はさらに2つに分かれ、いづれの部隊にも木や弓など、火計のための道具を持たせていた。 また、潜みながらも船を随時調達していた。攻めようとしている砦のすぐ近くには、長江やその支流が流れつく大きな湖があり、砦を攻めても、支流に逃げられたのでは元も子もない。 ただ、支流の中には水の浅い川がある。そこに敵の闘艦をおびき出せば、船底が突っかかり身動きが取れなくなって火で焼き払うことができるのだ。 斥候も頻繁に放っていた。 敵は油断している。甘寧に勝利したことによって己の力に陶酔し、南郡一帯の太守を気取り、本来の太守も敵の傀儡にある状態にまでなってしまったらしい。 甘寧は冷静であった。 勝利の確信は既に負けであることは、身を持って知っている。 負ける気はしない。 甘寧は一日の大半を、凌統を眺めることに費やしている。 凌統はずっと眠っている。 幸いなことに致命傷はなく、日を追うごとに快方に向かっているのは安堵した。そろそろ目が覚めてもいい頃なのだが。 「しっかし・・・火計とはな。」 戦術など、どこで覚えてきたのだか・・・。 凌統が何者であるのかは今もわからないが、凌統が戦に馴染んでいるようには思えなかった。力も勘もあるけれど、戦の場数を踏んできた者にしか無い気迫のようなものが、凌統にはないのだ。 だから、火計など戦術も知らなかっただろう。 普通に村や町で喧嘩をする分には、策など無用のはずなのだ。甘寧自身、好き勝手に暴れるほうが性に合っているので、頭を使った戦は好まないから、知らなくても気にしないけれど。 それでも、凌統は火を推してきた。 確実に勝つために。 勝ちを、捧げるために ・・・それは、誰に? (・・・。) 揚州の酒場で会った時のことを思い出す。 今更だけれど、どうしてついてくる気になったのか。尋ねても凌統は答えないような気がした。 「ったくよ。口が利けねぇってのは便利なもんだぜ。」 “兄貴が甲斐甲斐しく看てるなんて、江が逆流するんじゃねえか!?”などと茶化す言葉が甲板から聞こえてくる。 甘寧は、頬杖をつきながら窓の外を眺めた。 今日も江の流れは穏やかだが、行方がつかめない。 夜。 甘寧は、水の入った小さな甕を持って、凌統の所へやってきた。 凌統が眠っている寝台に寄り添うように腰を落ち着けると、杓で甕の中の水を一つ掬って口に含み、凌統に覆いかぶさり、水の口うつし。 何も飲まず食わずのまま眠り続けている凌統に、こうして一日に数回、水を飲ませていた。それは半分真実であったが、後の半分は口実だ。 己の口の中の水を全て注ぎ込み、凌統の唇の端から水が伝い落ちたら、それを舌で舐め取り、再び凌統の唇を吸った。 濡れた唇はしっとりと吸いついて、一定の間隔で漏らす寝息すらも濡れているようで、甘寧は夢中になって貪った。 背中に両腕を差し入れ、抱きしめながら何度も、何度も。 今日の夜はやや気温が高い。じっとりと肌が湿るほどである。 だから、凌統の冷たい手足はとても心地よくて、足の間に己の足をさし込み、手の甲にも唇を落とした。 いつもならここまで終わった。怪我人に無理をさせてはいけないと一応考えているのだ。 だが。 体を引いた時、目に映った凌統の姿に、甘寧は息を飲んだ。 やや欠けた月の光が窓から差し込み、凌統の首筋を白く照らし、閉じた瞼を縁取るまつ毛が下瞼に黒い影を色濃く落としている。 どこもかしこも水の匂いがする。 己の口の中すらも。 匂いに体が絡め取られ、大きな渦に窒息してしまいそう。 (やべぇ・・・なんだこれ・・・。) 止まらなかった。 いつの間にか息はあがり、眠る凌統の髪に指を差し入れて鼻を埋めればさらに水の匂いがして、体がぶるりと震えた。 「・・・凌統。」 名を呼んでも、返ってくる声も体温もないのに、それだけで中心が熱く芯を持った。 己の暴走しそうな欲を抑えるのに深くついた息は低い呻きを孕み、そして驚くほど熱かった。 たまらずに下履きを寛げて、既に硬くなったそれを握り込んで、凌統の顔を見る。 魔がさした、という言葉では済まされないだろうと、頭の冷静な部分で考えるが、最早止められない。 凌統は少しも表情を崩さずただ眠っている。それはより欲を駆り立て、甘寧は凌統の胸元を乱暴に肌蹴させて、己の先端を押しつけて夢中になって行為に耽った。 「凌統・・・凌統・・・」 名前を呼ぶたび、高ぶりが迫る。 水の匂いに雄の匂いが混じって、匂いで交わっている感覚。 ああ、ああ。 先端に感じる凌統の肌は冷たくて、凌統のまつ毛がふるりと小さく震えたのが合図。 「っ!!」 甘寧が達して凌統の首から胸を汚したのと、凌統が目を開いたのはほぼ同時であった。 9へつづく [*前へ][次へ#] |