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モブ短編
所以4
「兄上、何か聞こえる。」
「ああ。この勝負はまた日を改めて、だな!徳寿!」



互角の雪合戦を行なっていた元春と隆景は、城の内から大きな物音を耳にして、どちらともなく勝負を中断させた。
尼子か武田かはたまた吉川が大筒を持って攻めてきたのか。
二人は毛利の男として騒ぎを把握するべく元就の書斎へ走る。


「…徳寿、なんか様子がおかしくないか?」
「ええ、戦ではないのかな。」


城の内部は不思議な空気に包まれていた。
戦直前ともなれば、城内は幾分か研ぎ澄まされた空気と節度をもって慌しくなるが、何もない時は本当に静かで、いつも自分達二人の声が木霊していた。だから、先ほどの大きな物音は異常といってよかった。それなのに、現在も日常のように静かではあるが、空気が何かに憑かれたかのように暗い。目に見えない陰鬱な妖が家中に沈澱しているようだった。


「どうしたものか…」
「ああ、困った困った。どうすればよいのか判らぬ。」


家臣たちとすれ違えば、皆眉をハの字に曲げた顔をして小走りに去ってゆく。彼等は一応元春たちを見れば小さく一礼するものの、今は礼儀なども身に入っていないようであった。
そこで元春と隆景は考える。
大体いつも毛利家中を悩ませる種といえば、自分たちの度を過ぎた喧嘩か、元就のわがまま(餅関係)か、犠牲を顧みない政策である。


「なあ、徳寿。俺等そんなにひどい雪合戦してたかなあ?」
「いや?塀や門は壊していないし、柱も折っていない。そもそも弓も槍も、一張も持ち出していない。それにいつものように止めに入る者もいなかったでしょう?」

「じゃあ、俺等じゃないよなあ…。」
「ええ。父上も最近は甘味を控えていたようだし、領民や家臣を犠牲にするような戦も会合も最近はなかったみたいです。」


そうだ、最近は何もなかった。
何かあれば家来たちは隆元に愚痴っていたし、元就が大量に甘味を発注することがあれば、最近は隆元が甘味の量をこっそり変えたりしていたし…。


「隆元…兄・・・?」
「お、おい徳寿!どうしたんだ!?」


隆景は漠然とした原因の一つを確かめるため、並んで走る元春を置いていく勢いで足を速くした。











「父上!」


小さな毛利家臣二人は、元就の書斎の障子を素早く開け、父の姿を探す。


「親父、なんかあったのか?」


こちらに背を向けて座っていた元就に向かって転がるように駆けながら元春が声をかけたが、その背中は動かなかった。


「父上?」


隆景が近づき、元就の顔を覗き込んでみる。









「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」












そこには見たこともない父の表情があって、隆景は驚愕してしまう。



つづく






早くノブチンを出したい。

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