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short story
朝焼け



「‥雀の子をいぬきが逃がしつる」



春の明け方の柔らかい風が弥子の頬を撫でた。
ベランダから臨む街並みは朝もやに沈み、その呼吸を潜めては目覚めるまでの一時をまどろんでいる。

紫色の空へと羽ばたいた雀達を目で追うと弥子はゆっくりと深呼吸をした。
部屋の中ではコーヒーメーカーがそろそろ音をたて始める頃だ。



その昔、逃げた雀を追っていたのは年端もいかない可憐な少女。



‥そう、私よりもずっと幼い、深山に住むお姫様。



「‥紫の上の登場シーンだっけ?」

ぼんやりと雀達の後を目で追いながら遥かな悠久へ思いを馳せていたら、背後から笹塚の声がした。

弥子が振り向くと、夜勤明けの埃をシャワーで流した彼がタオルで髪を拭きながらコーヒーをカップに注いでいるところだった。



「‥はい、これ」

「ありがとうございます」



熱いカップを両手で受け取ると寝起き特有の無防備な笑顔で小さくはにかむ。

「で、なんで源氏物語?」

「なんとなく、雀を見ていたら」



思い出しました



「‥捕らわれのお姫様だね」



そう言って微笑する笹塚に弥子もつられて笑みを返す。

「私も捕らわれの身になりたいです」



この部屋で貴方だけに愛される、そんな幸せな退屈‥



一人寝の夜を過ごした朝に入れ違う寂しさは、弥子を我がままな子供へと変えていく。

やっと帰ってきたと思ったら、もう私は学校なんて寂しくないですか?



「‥後、二時間程でよければ、ね?」



君を捕まえて、閉じ込めて、




「‥それじゃ短いです」



始業までの残り時間はもう後わずかで食い下がる弥子の言葉に棘が生える。

「‥子供だね」

「子供‥です」

口を尖らせて拗ねる弥子を引き寄せると笹塚は、彼女のこめかみへキスをした。

「続きは学校が終わってからね」

「‥本当に?」

「ん、待ってるよ」



我がままなお姫様を閉じ込める籠を用意してね



fin

うぬぬ、雰囲気小説って難しいですね。


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あきゅろす。
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