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short story
朝ごはん




『‥で、その店のクロワッサンが絶品なんです』

「ふうん」

仕事を終え鉛と化した足を引きずりながら帰宅した処で俺は弥子ちゃんからの電話を受けた。

会話の内容は弥子ちゃんが嵌っていると言うパンの事だったりするのだが、正直パンはどうでも良かったりする。

大切なのは君の声を聴く事なんだよね

『‥朝一番で買いに行ったのに売り切れだったんですよ』

「そんな早くから開いてるの?」

耳許で笑う声は鈴の様に心地良い。

出来る事なら一晩中でも聴いていたいけど君は明日も学校なんだろう?



名残惜しさを隠してそう告げると君は笑って、

『今度買って行きますね』

と、通話は切れた。








昨夜の会話を思い出しながら歩いていたら、ふと一軒のパン屋が目に入った。

傍らには手書きのボードが立掛けられていたので、何気に覗き込んで見ると、

『朝のクロワッサンは売り切れました』

の文字。

どうやらここが弥子ちゃんの言っていた店らしい。



「いらっしゃいませ、お客様」

カランと鳴ったドアベルの後で穏やかな声が掛る。

開いた扉の向こうからは焼きたてのパンの匂いとコーヒーの香りが漂ってきた。


「もう売り切れ‥た‥んだ」



「そうなんですよ、今しがた可愛いらしいお嬢さんが全部買われてしまいまして」



きっと今頃は素敵な朝食の支度をしていると思いますよ?



そう言って笑った店員は












ジャムおじさんだった








ガタっと盛大にベッドを鳴らして寝返りをうった処で俺は夢から醒めた。



「おはようございます」

「あー‥、来てたんだ」

朝御飯の用意が出来てから起こそうと思ったんですよと言いながら弥子ちゃんはコーヒーを手渡した。



「沢山買っちゃいました」

と笑う君の手の中にはバスケット山盛りのクロワッサン。



「ねぇ、その店の店員ってさ‥」



ジャムおじさんだった?



「へ?」



首を傾げる君をみつめながら、



話の内容なんてどうでも良い なんてこれからは思わない様にしようと、熱いコーヒーに誓いを立てた。



fin


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