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14話 5

 服を取りに行って、香澄の生活用品を控えめに買い揃え、昼食をファミレスで食べた。
 夕飯の食材を買って、香澄と二人で夕飯の支度をする。

「億泰くん、いままでご飯つくったことないの?」
「兄貴がぜんぶやってるからよぉ〜っ」
「じゃあ、ここらで料理覚えて今度虹村くんをびっくりさせちゃおっか。カレーなら簡単だし」

 香澄はにっこりと笑った。億泰は元気よく頷く。
 形兆のことを話題に出す表情を見ていると、香澄が形兆に苦手意識を持っているとは思えない。だが、確かに今朝は怯えていた。
 実際のところ兄をどう思っているんだ、とは聞けなかった。

 三人分のメシだけでいい、と形兆は言ったものの、実際に作ったら五、六人分になってしまった。
 とはいえカレーは日持ちするし、朝食べれば問題ないだろう。と、香澄とふたりで納得する。

「あのさ……やっぱり、おじさんとは別々で食べるの?」

 テーブルに皿を配膳していた時、香澄がおそるおそる億泰にたずねた。
 億泰は気まずく思いながらも頷く。

「おやじ、椅子に座れねぇんだよ……座らしてもじっとできずに転げ落ちちまうし。それにモノこぼすしよぉ〜兄貴が怒るんだよな。だから、別々……」
「――そう」

 香澄は物言いたげに口を開いてすぐに閉じた。いただきますの挨拶をして食べ始めるが、やがて我慢できないといったふうに声をあげた。

「ねえ、おじさんと一緒に食べちゃだめかな」
「ふへ? だからテーブルには……」
「わたしが床で食べるから。おじさん見ながら食べるだけ。だめかな」
「かまわねぇ、けど……なんでわざわざ」
「せっかく家族なのに、別々で食べるのはさみしいかなって」

 スプーンに視線を落として、香澄はぽつりと呟いた。
 もしかすると、実家ではいつもひとりでご食事していたのだろうか。そう思うと億泰の胸がきゅっと苦しくなった。
 悲しい表情をしてほしくない。

「億泰くんはこっちで食べてて。わたし……おじさんとたべるよ」
「そしたら俺がひとりで食べるはめになるじゃね〜かよ〜」
「うっ」

 痛いところを突かれたと言わんばかりに香澄が言葉につまった。
 しどろもどろになる香澄に億泰は苦笑する。香澄の皿に手を伸ばして、自分の皿と一緒に持ち上げた。

「どうせ兄貴はいねぇしよォ、三人でメシ食おうぜ」
「え……いいの?」
「――実を言うと、あんまりうれしかねぇ。おやじは……その……俺たちが息子だってこともわかんねーし」
「うん……」
「でも香澄が一緒に食うって言うなら、食う」

 億泰は憮然として言った。香澄の願いにはなるべくこたえたかった。
 知らない家で不安な気持ちはあるはずだから、なるべく一緒にいてやりたいと思ったのだ。








2013/10/20:久遠晶
今後気まずいながらも関係は進展していきます。


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