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第13話 2
 
 香澄の身体が宙に浮き、次いで落下する。

 無意識のうちに形兆は走り出していた。
 香澄の落下地点には、校旗がたなびくするどくとがったポールがある。そこに落ちればただではすまないだろう。
 鳴り響く警報に従い、形兆は太ももを振り上げながらバッド・カンパニーで柱を狙撃する。しかし距離が遠い。表面が削れてひしゃげるだけで撃ち壊すには至らず、香澄のわき腹が柱に吸い込まれていく。

「ザ・ハンド!!」

 形兆の背後でザ・ハンドの右手が虚空を切った。空間が閉じ、香澄は斜め下に引っ張られる形で瞬間移動する。
 ポールへの激突は避けられたが、落下していることには変わりない。形兆は地面を蹴り上げ、大きく跳躍した。
 香澄が花壇の植え込みに叩きつけられる寸前、割り込むように形兆が滑り込む。

「ガハッ!」
「うっ……!」

 形兆と香澄は同時にうめいた。
 香澄をぎゅっと抱きとめたまま、形兆は衝撃でしばらく動けない。なにしろ三階からの衝撃をその身で受け止めたのだ。植え込みがクッションになってくれたものの、腰と手がしびれ、ばらばらになりそうな痛みがついで襲ってくる。

「香澄、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄る億泰が心配そうに香澄を覗き込んだ。
 香澄は形兆に身をゆだねたまま服を掴んで小さく震える。腰が抜けたらしい。
 浅く息をして、言葉を発せなくなっている香澄を見ていると、なんとも言えず形兆に怒りがこみ上げてくる。

「恐怖で声も出せなくなるなら、バカなこと考えるんじゃねぇ! なにしてやがんだてめぇッ!」
「……っ、っっ、……」

 至近距離で噛み付くように怒鳴ると、香澄は眉をさげて青ざめた顔をうつむかせた。
 よほど恐ろしかったのか、形兆が身体を起こしても、形兆から離れる気配がない。形兆は先日首を絞めて香澄を殺しかけたというのにだ。
 形兆としては早く離れてほしかったが、自分から引き剥がす気になれないほどに香澄は縮こまって震えている。
 嫌な予感がして、形兆は屋上を見上げた。
 すぐ真上、先ほどまで香澄がいた場所に人がいる。
 女だ。
 以前香澄の髪を引きちぎり、腹を蹴って香澄を嘔吐させた、あの女だった。
 女はフェンス越しに形兆を――いや、その腕のなかの香澄だろうか――冷たい目で見下ろしている。
 殺意が凝り固まった暗黒の目だ。反射的にバッド・カンパニーを構える形兆をよそに女はふいっと視線をそらし、そのままきびすを返して形兆の視界から消えていった。

「なぁ、香澄〜ッ……もしかして突き落とされたのかよ……?」

 億泰が言いにくそうにしながらたずねると、香澄の肩がびくりと震えた。
 青ざめた唇をわななかせて、ぶるぶると首を振って否定する。
 怯えきったその様子は、明らかに億泰の言葉を肯定していた。


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あきゅろす。
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