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第10話中編 1

「痛っ……くう……ぐ、うっ」

 香澄の喉からくぐもった音が漏れた。ごぽこぽと胃の中身が氾濫する音が響く度に肩が跳ね、ちいさな身体が揺れる。
 しばし香澄は堪えた。堪えたが、すぐに限界がやってくる。喉が大きく上下し、香澄はカハッと咳き込むようにして胃の中のものを教室の床に嘔吐した。

「げ、が、ぐう……」

 惨めなえづき声が教室に響き、形兆のいる廊下まで静かにもれだす。
 椅子や机が邪魔で、床に広がるであろう内容物は形兆には見てとれない。香澄のしぐさからすると量は少ないはずだが。
 おおよそ可憐な少女が出すような音ではない音を喉奥から発生させながら、香澄は咳き込んで苦しんだ。
 そんな香澄を冷たく見下ろして、女は顔を歪めた。

「もーったいない。農家の人に悪いと思わないの」
「……ごめんなさい……」

 胃液が喉に来るのか、力ない謝罪はかすれていた。
 床に座り込んだまま小さく震える香澄に、女はさらに苛立ったように舌打ちをする。

「アンタっていつも言いなりでされるがままよね〜……アタシがこのゲロ食えって言ったら、食べるの?」

 眉をしかめながらも、その唇をつりあがっていた。女が首をかしげた拍子に髪の毛がさらりと揺れ、形兆はその様子を嫌悪した。

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あきゅろす。
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