回答拒否 第4話 2 「あはははは、その様子だとうまくいったみたいだね! よかったよかった!」 「お前……なんつーか本当……変なやつだよな」 「に、虹村くんには言われたくない! あははは、虹村くんって本当面白いよね!」 「笑うな」 バカ笑いされるとむしょうに恥ずかしい気分になる。憮然とした形兆は香澄の頭にチョップを落とした。グーではないのはささやかな優しさだ。 「いったい! この前の保健室行くときのアレといい、虹村くんって乱暴だよね」 「お前がわけわかんない理由で笑うからだろ」 「笑う門には福があるよ? 虹村くんはもっと笑うべき!」 「お前が居なきゃあもうちょっと表情豊かなんだがな〜ッ」 「わたしといると表情がしかめっ面で固定されるって? ひーどいなーもー。あははは!」 香澄は我慢できずにけたけたと笑った。 もう一度チョップしてやろうか、と形兆は思ったが、クラスの注目を集めていることに気付き憮然として鼻を鳴らした。 「香澄、虹村と話してるとよく笑うよねー」 「いまの会話のどこが面白かったんだろ……」 「虹村暗いけど顔はいいからなぁ」 クラスの女子が話している内容に香澄は気付いていないらしい。ひとしきり笑ったあと、涙をぬぐいながら形兆を見上げる。 「あーもう、虹村くんって面白いから好きだよ」 形兆は頬をひきつらせた。 純然たる友情からの言葉だろうとはわかるが、形兆以外の人間にそれは伝わらなかったらしい。 香澄の爆弾発言に女子が「大胆ー!」と黄色い声をあげ、一部の男子からの殺気を形兆は一身に感じた。 昼休みは、クラスメイトに捕まる前にどこかに逃げると心に決める。 「……頼むから、これ以上ストレスをためこませんな……」 「虹村くん、どうしたの。お腹痛い?」 純粋に心配している香澄が恨めしい。 こんなヤツが好きな男の気がしれねぇ、と言葉には出さず考える。殺気の数から見るに、香澄の支持率は悪くはないようだった。 *** 形兆が動物嫌いというのは、あながち嘘ではない。 獣の臭いは嫌いであるししつけの手間も食事の手間もかかる。動物の世話など父親と手間のかかる弟だけで十分だ。単純な好き嫌いの前に動物を買うときのデメリットを考えしまい、形兆は気が滅入る。 だが、世話を抜きにした好みではどうかというと――裏庭に散乱するかつおぶしを見れば、わかるだろう。 「お、おお……」 昼休み――形兆と香澄の仲を疑うクラスメイトたちから逃げるようにして裏庭を訪れた形兆は、自分の足元のかつおぶしに寄り付く猫たちに感嘆の声をあげた。 かつおぶしに熱中する猫たちは形兆に頭を撫でられてもされるがままだ。やわらかな毛並みを楽しむ至福の時。 それは即座に瓦解した。 「おーっっ兄貴だーーっ!」 遠くからの大声に驚いた猫たちは即座に形兆の足元から消えてしまう。 先ほどまで感じていたはずの感触がなくなり、形兆は喪失感に手を震わせた。 「お、億泰ゥ〜っ!!」 「あん? どうしたんだー兄貴?」 「……ぜってーこねぇ、とかなんとか言ってたのに……うぷぷ」 間抜け面の億泰の後ろから、笑みをこらえる香澄が顔を出した。 裏庭。香澄。猫。こないだの接触事故を思い出した形兆はとっさに唇を引き結ぶ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |